グローバル・マネー・ジャーナル

2018.9.26(水)

トランプ大統領のしたたかな戦略(大前研一)

2018.09.26(水)
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トランプ大統領のしたたかな戦略(大前研一)

シリアに非武装地帯の設置

 ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は17日、シリアのアサド政権が奪還を目指す反体制派拠点の北西部イドリブ県で、非武装地帯を設置することで合意しました。アサド政権を後押しするプーチン氏とこれ以上の難民流入を防ぎたいエルドアン氏が歩み寄った形ですが、合意が円滑に実施されるかは不透明です。
 今回、エルドアン大統領とプーチン大統領の動きは非常に早く、これに対してイランも巻き込み、こうした非武装地帯を作り、ここで難民がきちんと安全を確保し、そこはロシアも攻撃しないとしています。当然アサドをコントロールできるのはロシアだけなのです。
 シリアにおける各勢力の影響圏を見ると、イドリブは拠点と言えるほどはっきりしていないらしいですが、最後の反政府勢力が存在している地域になります。ここに、非武装地帯として、攻撃しないところを作ったわけです。地図を細かく見ると、イランの監視拠点が緑の点で、ロシアの監視拠点は茶色い点、トルコの監視拠点は水色で示されています。
 このように、イドリブの外側はそうした国が抑えているので、これにイランも合意して拠点を作れば、安全地帯が確保できるというわけです。ただ問題はそうした地帯を作ると、攻撃しなくてはいけない反政府勢力、IS系などが、そこに一般市民と一緒に逃げ込んでしまうと、攻撃できなくなってしまいます。こうした場合、実際の運用では、効果が疑わしいところがあるのです。
 実はシリアの難民はトルコが一番多く受け入れており、シリアはもともと人口2200万人程度のところですが、国内の難民が660万人います。そして、トルコに行ってしまった人が350万人いるのです。レバノンには100万人近く、ヨルダンも67万人、イラクには25万人、エジプトには13万人、その他北アフリカには3万人となっています。このように、シリアというのは既に国の体をなしていないわけです。この人たちがまた戻ってきてシリアの建国、再建をするということも、今の破壊され尽くした状況を見ると難しそうです。かと言って、この難民たちを350万人もトルコが受け入れ、仕事も与えずに食べさせていかなくてはいけないというのも大きな負担です。
 こうしたイドリブの問題を早く片付けて、トルコに行っているような人たちをどうしていくのか、ロシアもおせっかいが好きなのであればこの問題を解決しなければ意味がないのです。しかしロシアはそうしたことについては苦手で、この事態もほとんど自分の武器のデモンストレーションをするために使っているようなところもあるので、そこが問題なのだと思います。

米による対ロシア制裁強化法

 トランプ政権は20日、対ロシア制裁強化法に違反してロシアから軍事装備品を購入したとして、中国共産党の高官らに制裁を課すと発表しました。これまで対ロ制裁はプーチン大統領の側近などが主な対象でしたが、今回ロシアにとって重要な軍事産業も含め、締め付けを強める考えを示しました。
 これは、イランと付き合っているところはアメリカと取引できないようにするという対イラン制裁と同じようなやり方です。ロシアから軍事装備品を買っているところ、中国で言えば、当然のことながら武器購入の担当部長と武器購入部門の人たちは、アメリカの銀行を使った取引や、アメリカに仮に個人資産があればそれをフリーズすると言っているのです。
 ロシアから「スホイ35」を買う国というと、インドやトルコも含まれてくるのです。さらに、地対空ミサイルの「S400」も非常に人気があるのですが、こうしたものを買おうとしているインドやトルコなどは、アメリカとはそこそこ仲良くしていこうと思っているにもかかわらず、買ったら制裁を受けることになるわけです。しかも、軍の購買部門が個人的に制裁を受けるということなのです。トランプ政権は本当にこのようなことをしていて大丈夫なのかと思います。
 武器の輸出額を見ると、アメリカは今、ロシアに対して非常に危機感を持っていることがわかります。ロシアの武器輸出は一度落ち込みましたが、今ではシリアで現実にどんどん武器を使っているところを見せつけ、人気が出てきているのです。
 それでこのようにして中国の武器調達部長のような個人や、その部門が持っているアメリカの資産と、アメリカとの取引を禁じるという話なのです。フランスなどもやっていますが、こうして特にロシアを押さえつけているわけなのです。

米中貿易戦争の影響

 トランプ政権は17日、中国の知的財産権侵害に対する制裁関税の第3弾として、年間輸入額約22兆円相当の中国製品を対象に、追加関税を実施すると発表しました。当初は税率10%で発動し、中国が年末までに政策変更に応じない場合は、25%に引き上げるということです。
 日本も日米貿易戦争を20年やりましたが、日本は反発はせず、アメリカの言う通りにやりました。しかし、中国はいちいち反発するという癖があるので、トランプの性格から言うと反発しなくなるまでやるということになり、際限なく進んでしまうことになります。
 ただ大きな構図で見ると、トランプは非常にずるいところがあります。金持ちには大きな減税をし、税収が足りなくなると思っていたら、この輸入関税によって5兆円、うまくすると10兆円が入ってくるのです。それでバランスが取れれば、歳入不足ということはなくなるのです。
 その一方、アメリカでは輸入したものが高くなるので、一般の大衆は消費税と同じ効果で苦労することになるのです。
 一方で金持ちは大儲けということで、減税は金持ちに効果が出るのです。トランプ大統領は見事にこれで、歳入不足に陥ることなく、一般の人に消費税と同じように負担をさせ、金持ちにはたくさん寄付してあげているという、いかにも彼がやりそうなことを実現しているのです。
 中国をいじめている顔をしながら、実際はアメリカの購買者がいじめられており、一方で大型減税による歳入不足という経済をおかしくするような問題はなくなってしまうという構図になっているのです。トランプ大統領の、よく言えばしたたか、悪く言えばとんでもないずるさがここに出てきているわけです。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
9月23日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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欧州における混乱と崩壊の兆し(大前研一)

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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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