グローバル・マネー・ジャーナル

2017.10.18(水)

プーチン一強体制に対するロシア国民の閉塞感 打破に向けた動きとは(大前研一)

2017.10.18(水)
プーチン一強体制に対するロシア国民の閉塞感 打破に向けた動きとは(大前研一)
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プーチン一強体制に対するロシア国民の閉塞感 打破に向けた動きとは(大前研一)
【イギリス情勢】ポピュリスト社会主義が成功しないワケ
フィナンシャル・タイムズは7日、ポピュリスト社会主義が成功しないワケと題する記事を掲載しました。北欧諸国の社会民主主義は規律を守り、民間部門にインセンティブと主導権を与えることにより大成功を収めた一方、中南米に見られるポピュリスト社会主義は規律を欠き、インセンティブに無頓着なことから成功しないと指摘。現在イギリス最大野党、労働党のコービン党首が権力の座に就く可能性はかなり高いものの、彼が打ち出す政策は典型的なポピュリストのジェスチャーだとしています。
このようなことはギリシャでも見られ、世界的にはもちろん中南米も同様で、ベネズエラのチャベス元大統領などがやってきたことです。キューバをはじめ、こうした社会主義はひっくり返っています。
実はこれがフィナンシャル・タイムズの記事で重要だという意味合いは、イギリス情勢にあります。現在、テレサ・メイ首相の人気がどんどん落ちてきていて指導力もなくなり、やがてクビになると想定されていますが、対するコービン氏が労働党で全く人気がなかったのに今では人気が出てきているのです。
それは、ばらまき主義によるもので、ちょうど今、日本でも消費税を上げますが教育は無償化しますというバラマキ執行をやっていますが、そういう社会主義的なばらまき主義が、結局は財政規律という問題に対して無頓着で、最終的には国を滅ぼしてしまうという話なのです。日本の場合には、自由主義政党であるはずの自由民主党の方が、バラマキ主義でここまで財政規律を破壊してきたわけです。
コービン氏は、BBCなどを見ていると圧倒的に人気が出てきています。そしていつの間にか彼の言っていることを皆で支持しようと、演説中にも節々で皆が立ち上がって拍手をしているのです。いつ彼がクビになるかという時代が一年前にはあったわけですが、テレサ・メイ氏のあまりにもみじめなEUとの交渉、融通性の無さ、イギリスをどこへ導いていきたいのか話もできず、合意しないまま離脱の方へ向かう可能性が出てくる中で、コービン氏は俺たちに任せればいい、上手くやると言って人気を得ているのです。ですからこのフィナンシャル・タイムズの記事は、コービン氏は危険なのだ、イギリス人は目を覚ましなさいという意味の記事なのです。日本も同様で、目の前に鏡を見せてあげたいと思わせる記事でした。
【ロシア情勢】プーチン体制打破に向けた、代表制政治への移行の動き
日経新聞は10日、かつて石油王と呼ばれながらプーチン大統領と対立し、10年間にわたり投獄されたロシアのミハイル・ホドルコフスキー氏のインタビューを掲載しました。来年3月に大統領選を控え、ロシア国民に閉塞感が強まっていると指摘。プーチン体制の打破に向け、各地の新たな政治指導者を後押しし、代表制政治への移行を目指すとしています。
これは私も驚きましたが、ホドルコフスキー氏というのは大変な金持ちで、ユーコスの社長をやりながら10年間もブタ箱に入れられていました。今はイギリスに亡命していますが、彼はそこで具体的に、モスクワのこの選挙ではこの人、ここではこの人と名前を挙げて、国外からプーチンに対抗する人間として候補者への支持を表明しているのです。
プーチン体制に国民が疲れているのですが、現体制に対する対抗勢力を一気に作ることは難しく、そうした状況が見えてくるとプーチン氏はまともに叩くということで、人間単位でそれぞれの人を応援しているというやり方をしているのです。
プーチン大統領に対する信任度を見ると、メドベージェフ首相には気の毒ですが、高止まりしていて、不支持は非常に少なくなっています。一方ロシア政府に対する信任度を見ると、支持不支持が拮抗しています。つまり国民は、プーチンとロシア政府は違うと思っているのです。プーチンにとっては永久に安定の状況といえます。
また、ロシアの経済事情を見ると、成長率は無事V字回復をしてきていて、こういうことをプーチンとしては大きく言いたいところなのです。ルーブル安が進み、ロシアに対する制裁が始まってからルーブルの価値は半分ほどになってしまいましたが、しかしそこで止まり、今は若干回復しているというところが支持の理由なのだろうと思います。
外貨準備高もすぐに消えてなくなると言われていましたが、今は若干戻してきています。ですので原油安によって財布が空っぽになり、ひっくり返るというような状況でもないのです。いずれにしてもロシアはそこそこの経済運営はしていると言えるでしょう。
さらに制裁慣れして、ヨーロッパ以外のところから農産物や色々なものが入ってくるようになり、人々は困窮はしていません。ただこのプーチン氏のやり方には皆、疑問を持っているので、それを選挙という機会を使って人物単位で支持していくという、ホドルコフスキー氏にしては驚くほど冷静な反プーチン戦略を開示していると思います。
ユネスコを巡る諸問題
アメリカ国務省は12日、ユネスコ国連教育科学文化機関から脱退すると発表しました。抜本的な組織改革の必要性に加え、ユネスコの姿勢が反イスラエル的であることへの懸念を反映したということです。脱退時期は2018年末で、その後はオブザーバーとして参加するということです。
これもトランプ大統領なら考えられることですが、その理由が反イスラエル的だからと言っています。そういう要素もなくは無いものの、それが理由でアメリカが抜けるのかと言うと疑問です。
ユネスコの分担金の内訳を見ると、実はアメリカが日本の倍の額を出しています。しかし、アメリカの場合は99年にパレスチナがユネスコに加盟してからずっと、実は拠出金を出していないのです。日本も制度改革を迫っているものの、やらないと言うので今年の分担金は留保しているのです。
ユネスコの歴史を見ると、70年代にセネガルのムボウ体制下で公金流用、縁故人事が蔓延し、どうしようもなかったという時もありました。そして、アメリカはすでに過去に84年から20年間脱退しているのです。イギリスは85年に脱退し、97年に復帰、シンガポールも一時脱退しています。2003年に日本の松浦氏が事務局長に就任し、改革が進みました。
そして今は、初の女性国連事務総長を狙っていると言われるボコヴァ氏が、中国の支持を取り付けるため、抗日戦争勝利記念式典に出席するなど、中立性が疑問視されています。そうしたいろいろな問題があるのがユネスコであり、脱退は初めての事ではないのです。アメリカはそうした意味で、ユネスコとの折り合いはもともと悪かったのです。ただトランプ大統領が脱退するとなると、反イスラエル的というのが本当に理由なのか、それならば分担金を最も出しているので積極的に関わって改善したらどうかと思われます。
講師紹介
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
10月15日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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 それでは、次回のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!次週は休日のため、5月10日に配信いたします。