グローバル・マネー・ジャーナル

2018.12.26(水)

国内景気の真実と2030年の現実(大前研一)

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国内景気の真実と2030年の現実(大前研一)

国内好景気戦後2番目の長さの意味

 内閣府は13日、有識者らでつくる景気動向指数研究会を開き、2012年12月から続く景気拡大期間が高度成長期の「いざなぎ景気」を超え、昨年9月で戦後2番目の長さになったことを確認しました。またさらに、景気の回復が今月まで続いていることが確認されれば、戦後最長に並ぶことになり、政府や民間のエコノミストの間では、来年1月には戦後最長を更新するとの見方が強まっているということです。
 これには何の意味もありません。それほど良い景気がずっと続いているという感覚は、国民は全く持っていません。国民の感覚との間になぜこうしたズレが生じるのかと言うと、要するに景気動向と言うものを測っている数字に原因があるのです。
 平成30年間を振り返って、平成元年の世界の企業の時価総額ランキングを見てみます。1989年1月に天皇が崩御され平成になったわけですが、当時のトップテンのうち、エクソン・モービルとIBMを除いて全て日本の企業が占めているのです。それが、2018年9月末のランキングでは、中国の2社が入っているのを除いて、全てアメリカの会社になっているのです。平成という時代は、日本が世界で最も激しく衰退した時代なのです。
 それなのに、なぜ景気が良くなったなどと言っているのかというと、それは指標の見方が良くないからです。例えば、平成元年から見ると、株価はどんどん下がってきて、戻してきたとは言え、依然として当時の水準は回復していない状態にあるわけです。一方、FTSEは3倍近く、そしてダウはなんと9倍になっているのです。平成の間で、先進国の中で日本だけがマイナスになっているのです。
 そして、名目賃金の推移を見ると、アメリカやユーロ圏はほぼ2倍になっています。
 その一方、日本はマイナス7%です。つまり、平成元年から平成最後の年まで、上がっているものなど何もないのです。ある種の統計上では57ヶ月上がっているといっても、身近な指標では地を這うようなレベルなのです。これを上がっているなどとは到底言えません。
 この平成の中、世界で我々日本だけが、失われた30年だったという認識が必要です。日本にとっては戦後経験したことのない、最も暗い、失われた30年だったのです。戦後70年のうち、この30年は何も良いことがなかったわけです。さらに企業で言えば、国内トップのトヨタ自動車が世界では26位で、トップ10には1つも入っていないのです。日本企業も世界の舞台から姿を消した、そういう時代だったのです。このことを言わずして、「いざなぎ景気」などと言っていますが、白衣の装束を着てイザナギに戻った方が良いのではないかという感じです。

2030年都市別GDPランキング

 日本経済研究センターは、日本、アメリカ、アジアの、13の国と地域の主要77都市を対象に、都市別のGDP予測をまとめました。それによりますと、2015年時点の上位10都市はニューヨーク、東京、ロサンゼルスなどで、中国はゼロだった一方、2030年の予測では北京や上海など4都市がランクイン。アメリカは8から5都市に、日本も2から1都市に減少し、中国の都市が今後躍進する見通しだということです。
 今、世界は国の競争のほかに、メガシティの競争になっています。メガシティに繁栄が集まるという傾向があるのです。私は「国民国家の終焉」という本の中で、このことをかなり詳しく書きました。また、UCLAで公共政策論の講義の中で教えているのもメガシティというもので、深センなどの都市に代表されるように、繁栄はメガシティということがテーマになってきているのです。
 2030年の一人当たりGDPのランキングを見ると、シンガポールがトップになっています。日本は名古屋や東京が上位に入っています。また、サイズで言うと、ニューヨークがトップで2位が東京となっており、2015年の時点では大阪も上位に入っているのですが、2035年の予測を見るともう大阪は入らず、深センなどの都市がトップテンに入ってくるのです。このように中国の都市の躍進が非常に目立っています。
 今は繁栄というのはメガシティにもたらされるということで、日本の場合には、東京を除いてはメガシティができない状況にあるのです。大阪も、IRだ、万博だなどと言っても、あのようなものは芥子粒ほどの影響しかないのです。もっと大阪そのものが、世界中から人、金、モノ、情報が集まるようにしないといけないのです。名古屋も同様です。そういう日本の地方の自由度が求められるのです。北海道であれば札幌、東北で言えば仙台、九州の場合には福岡といったところが、メガシティを目指して動くべきなのです。しかし、日本では、みんなで足を引っ張り合い、なぜ札幌だけなのか、なぜ福岡なのかなどやっているのです。やはりメガシティの競争だということになると、憲法第8章を書き換えて、そうしたところにもっと自治権を与え、世界中から人、金、モノが来るようにしないといけないのです。これが私のセオリーなのです。
 シンガポールなどは都市国家なので楽勝です。しかしやはり、世界第一のメガシティはニューヨークであり、二位は2035年の予測でも、東京なのです。東京と言えば日本であり、日本中の権限を東京に集中できるので楽なのですが、大阪や他の都市などにも、もっと権限を与えないといけないのです。日本の中の、少なくとも道州別で言えばそれぞれの首都になるようなところが、そうした視点に立った長期ビジョンを持たなくてはいけないというのが私のセオリーです。今回はたまたまそういう都市をテーマにした報告が出たというわけです。

仏伊財政収支の推移

 フランスのマクロン大統領は10日、2019年1月から、最低賃金をおよそ8%引き上げるなどの家計支援策を発表しました。フランス全土で続く黄色いベスト運動を踏まえた譲歩策ですが、これにより、マクロン政権が最優先課題とする財政立て直しは、一層困難になる見通しです。
 問題の引き金となった、燃料税を上げるという策は止めたようです。最初は半年間はやらないと言っていたのですが、1年やらないと言い出し、今ではもう言わなくなりました。そして、この最低賃金を100ユーロ上げるという策を実行した場合、計算してみると最低賃金は24万か25万円になってしまうのです。これが最低賃金とすると、日本などよりもはるかに高くなってしまいます。
 これにより黄色いベスト運動は終わって欲しいというわけですが、まだくすぶっています。以前ほどではなく、パリに攻めてきているという状況でもなくなっていますが、マクロン辞任を迫って48項目などというものを出しているので、そう簡単に収まるかどうかはわかりません。今回マクロン大統領は最低賃金の件で大枚をはたいたわけですが、財源があるのかという点は疑問です。本当に実現ができるものなのでしょうか。
 もう一つ疑問なのが、イタリアの情勢です。ヨーロッパの言うことなどは聞かないと言って、コンテ首相は予算を出し、ヨーロッパに否定され、3週間で直すように言われたわけですが直せず、今度出してきたのは、GDP比の財政赤字2.04%という案です。当初はマイナス2.4%だったわけですが、それに対して修正を加えました。ギリギリのところまで持ってきたということで、制裁を回避する態度を示したわけです。ヨーロッパ委員会としても、これをさらに否定するか、今年はこれで良いとするか微妙なところであり、そういうところにイタリア側は玉を落としたというわけです。
 財政収支の推移を見ると、イタリアに並んでフランスも、GDP比で2.8%の赤字です。これに対して、今回マクロン大統領がとても金のかかることを約束してしまったので、財政状況はより悪化するでしょう。イタリアよりもむしろフランスの方が問題児だということになってきます。
 イタリアは、ギリシャの二の舞としてとんでもない苦しい立場に追い込まれると思いきや、今度の予算に真実性があるのなら、ギリギリセーフのところまで来たと思います。ヨーロッパはただでさえ不安定な上に、ギリシャよりもはるかに大きいイタリアに問題を起こされると困ってしまうのです。今回の予算をヨーロッパが認めてくれれば、とりあえずはほっとするということになります。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
12月16日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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【次回の記事】国内株式動向(大前研一)
【前回の記事】
米IT「ビッグ5」時価総額(大前研一)

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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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