グローバル・マネー・ジャーナル

2018.7.4(水)

日本の個人金融資産とトルコ大統領選(大前研一)

2018.07.04(水)
日本の個人金融資産とトルコ大統領選(大前研一)
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日本の個人金融資産とトルコ大統領選(大前研一)

【日本】人生100年時代の不安から現預金増加傾向

 日銀が6月27日に発表した資金循環統計によりますと、2017年度末の家計の金融資産残高は、前の年に比べ2.5%増加の、1829兆円となったことがわかりました。株価の上昇により、株式の評価額が膨らんだことに加え、現預金の増加が続いていることなどが背景にあるということです。
 個人金融資産というものは、1200兆円、1400兆円、1500兆円などと言われて拡大してきましたが、なんと今では1800兆円を超え、そのかなりの部分は金利も付かない現預金だと言うのです。金利の付かないところにもっとも多くのお金を置いているわけで、この国の国民は全く考えていないということです。
 そして実はこれこそが、日本人が金を使わない理由となっているのです。今は少し貯金を持っていても、増えている感覚がまるでないので、使えないのです。私の友人などもそういうことを平気で口にしています。しかも、人生100年などと言われ、つまり自分の計画よりも20年も長いので、そこはますます使えなくなるというわけです。ここで下手に人生100年などと言うと、資金のフリーズがさらにきつくなるわけです。
 年金の問題については、最後は国が全部面倒を見る、最低生活ができるだけの額は国が出すので全く心配ない、貯金も何もなくてもやっていけるようにしてあげるという形が望まれます。今、日本人は貯金、年金、保険と、三重に自分を防御しているので、死ぬときには資産が世界で一番多くなっていることさえあります。その問題を解決するには、国の方が思い切って、生活ができる程度のものは、何があってもなくても、ちゃんと保証するという政策が必要でしょう。
 収入がある場合は別にして、収入がない場合には最低限これだけはやってあげるから、それで生活ができるだろうと言って保証をしてくれれば、この金融資産は使っても良いものとなり、全部マーケットに出て来るわけです。1000兆円以上の金が市場に出てくることになり、それが例えば10年かけて出てきたとしても、1年100兆円という規模になり、洪水になってしまうレベルです。1800兆円のうちの1%、18兆円だけでも出てくれば、年間の消費税による税収相当になるのです。そう考えると、不安心理を取り除いてあげるということが今、政府にとって最も重要なことなのです。
 保険につて、日本は非常に良い制度を持っているので、病気になったらどうしようという不安は乗り越えられるでしょう。しかし、最終的に稼ぎがない状態で、更に年金等が確実に見えてない状況で、今後食えなくなったらどうしようというところが問題なのです。それを克服すれば、この1000兆円以上の現預金が、市場に出てくるというわけです。そしてそれを使って人生を楽しみ、積極的に生き、俺の人生は良かったと言って死んでいくという形にしないといけないのです。
 今のように、突然出てきた人生100年ということを言われると、80年でも足りないかと思っていたものが、100年では全然足りないと思ってしまうわけです。私の同年代の友達の多くが、ますます金は使いませんと言っているのです。そして私に、なぜそんなに使うのかと嫌味まで言ってきます。バイクなどに乗ってくるくる走っている場合ではないだろうと言うのです。全く余計なお世話ですが、実際、多くの人が不安で金を使えない心境になってきているのです。

【トルコ】エルドリアン大統領再選

 トルコの大統領選挙と総選挙の投開票が先月24日行われ、選挙管理委員会は、現職のエルドアン大統領の得票率が53%に達し、勝利したと発表しました。また自身が率いる与党、公正発展党主導の政党連合が、議席の過半数を獲得したということで、これにより、エルドアン大統領は、施行が予定される新しい憲法の下、大幅に拡大した権限を得ることになります。
 エルドアン氏は本当に良い首相、そして大統領であったのに、最近はやや強引さが目立ってきています。今回の選挙は危ないのではないかと言われていましたが、蓋を開けてみるとすんなり勝利となりました。
 今回は、デミルタス氏の国民民主主義党はクルド人主体の党であり、東にあるクルド人地域はほとんど彼が取っています。一方、共和人民党のインジェ氏は、いわゆる地中海に接したところ、ヨーロッパに近いところを取っています。そしてその他の地域はエルドアン氏が勝ったという、驚くべき結果になりました。事前には、やはりもう少しうまくいかないと予想され、1回目で50%を切ると2人で最終決戦になるので、その場合はエルドアン氏は危ないのではないかという意見もありました。しかし、実際に蓋を開けてみると、エルドアン氏がマジョリティを1回で取ってしまったということです。
 トルコの経済情勢を見ると、トルコリラは1ドル2トルコリラから、4.5トルコリラへと、4年で半額以下になってしまっています。つまり、逆にインフレが非常に進み、国の生活は非常に貧しくなるという状況です。経常収支も長期間赤字のままで推移していることがわかります。
 エルドアン氏が、こうした状況の中で支持されるということは、やはりトルコのインタレストを重視し、トルコファーストのような立場を取っているからでしょう。アメリカとも丁々発止とやり合い、ロシアとも握る時は握り、ヨーロッパとも対立するときは対立し、ということをやっている見かけ上の勇ましさを支持する人が多くいるわけなのです。また、他に代わりがいないという状況でもあります。こうしてエルドアン氏が選ばれましたが、今後、暴走しなければ良いと思います。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
7月1日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
▼講座受講をご検討頂いている皆さまへ
▼その他の記事を読む:
【次回の記事】米国が仕掛ける貿易戦争と今後の主要国経済(西岡純子)
【前回の記事】
英EU離脱問題 アイルランド国境問題の種火(大前研一)

株式・資産形成実践講座事務局
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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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