グローバル・マネー・ジャーナル

2018.10.3(水)

日米通商交渉 ちゃぶ台返しは起こるか?(大前研一)

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日米通商交渉 ちゃぶ台返しは起こるか?(大前研一)
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日米通商交渉 ちゃぶ台返しは起こるか?(大前研一)

ロシア知事選挙に見る新しい動き

 ロシア極東ハバロフスク地方と中部ウラジミール州で、23日、知事選挙の決戦投票が行われ、与党、統一ロシアの候補が相次いで敗れました。年金受給年齢引き上げに対する国民の強い反発が、抗議票につながっている模様で、プーチン政権には打撃となりました。
 要するに年金問題が引き起こした事態です。プーチン大統領は、年金問題があって支持率は落ちてきているものの、まだ不支持よりも支持が圧倒的に多い状況です。
 一方、ロシア政府に対する信任度を見ると、支持より不支持の方が圧倒的に多くなっています。これはプーチン戦略により、プーチン大統領は支持するが、政府は支持しないということになっているのです。年金問題はプーチン大統領が主導してやってきたわけですが、これをいつの間にか政府の方に押し付け、今は政府の議会などで一生懸命これに取り組むようになっているのです。プーチン大統領の方には風向きが来ないようにしているというわけです。
 しかし、地方選で統一ロシアが破れるという事態、これはある意味新しい動きです。年金問題はロシア人にとって、ゴルバチョフの後の苦い思い出があるだけに、非常にデリケートで、このように民意を反映する場面では現れてくるのです。
 また、タイム誌でも、ロシアのマトリョーシカを描き、各国首脳を開けていくと最後にプーチン大統領が出てくるといった絵が表紙を飾っています。要するに、プーチン大統領に各国が操られているという状況を描いているのです。ツァーに召された人々という感じで、フィリピンのドゥテルテ大統領までここに入っています。
 プーチンは長くやっているだけに、立ち回りが非常に巧妙です。しかし、いよいよ馬脚を現したと思われるのが、この年金問題なのです。

IMFによるアルゼンチン向け緊急融資

 IMFは26日、アルゼンチン政府の要請に応じ、アルゼンチン向け緊急融資枠を71億ドル拡大すると発表しました。アルゼンチン政府は、2019年に基礎的財政収支を黒字化させる目標を掲げ、財政支出の削減を進めており、今回の融資を活用し、低所得者向けの社会保障等を維持し、国民の反発を抑える考えです。
 しかし、これではアルゼンチンの再建は難しいと思います。IMFはよく財政再建に8000億円ものお金をつぎ込むものだと思います。やらないと、アルゼンチンはすぐに倒れてしまうので、やらざるを得ないわけですが、基本的にはその程度では治らないのではないかと思います。
 アルゼンチンはソブリンの格付けで言うと、Bなのですが、通貨の下落率ではどこよりも大きいという状況です。したがって、むしろブラジルなどの方がよく見えてしまうというわけです。アルゼンチンは何度か金融危機に陥り、自分の出した国債もデフォルトしています。10年以上経って回復したときにその7割はカットということで、投資した人たちが皆、大きな損をしたということが、過去10年の歴史の中で起きています。そしてまた同じような状況になってしまっているのです。

米通商政策、日米貿易の本質

 日経新聞は24日、「通商は大統領に聞いてくれ」と題する記事を掲載しました。これはアメリカのトランプ政権の閣僚が、重要な通商交渉を任されても、トランプ氏の胸三寸でちゃぶ台返しに遭うと紹介しています。8月から始まった日米経済協議でも、政権の担当者であるライトハイザー氏が、案件は大統領に聞いてくれと述べたということで、トランプ氏との間合いを心得ているはずの安倍総理にとっても、通商問題は視界不良としています。
 今回は、安倍総理もちゃぶ台返しに遭っているわけですが、ムニューシン財務長官なども、本当はこのような任務をやる必要は無いのです。大変な金持ちであり、ファンドマネージャーでもあるからです。しかし名誉があると思ってこれをやっているわけなので、気合を入れてはやらないのです。後はトランプ大統領がどういうかです、となるのです。
 また、ライトハイザー氏はかなりのタカ派なのですが、それでもあるときにはふわりと優しくするなどという交渉は、トランプ大統領が全部やってしまうのです。トランプ大統領は、通商というものを自分のおもちゃに使っているのです。
 相手の国をいじめる時に、例えば今は中国などがどんどんといじめられていますが、今度は習近平と会うと、これをふっと緩める可能性もあるのです。ライトハイザー氏やムニューシン氏は、自分で一生懸命交渉を詰めていっても仕方がないということになるのです。日本側でライトハイザー氏に対峙しているのは茂木経済再生担当相ですが、ここでいくら細かく決めていても、あっけなく話が変わってしまうと、全く違った交渉結果になってしまうのです。
 何故かと言うと、トランプ大統領は、通商というものを面白い道具、相手のディールを引き出すものとして使っているからです。
 通商は彼にとって、自分を中間選挙でうまく見せるための道具に過ぎないのです。本当に通商問題をどうにかしようと言うほど、この人は通商を詳しく知ってはいないのです。特に中国との関係については、このような通商の喧嘩などをしている場合ではないのです。
 しかしそれを彼は知らないのです。日本が過去25年ほどに渡って、アメリカとどういうことをやってきたのかも知りません。ただ、新しいディールを持ってきて、難癖を言うと、もう一つか二つは私が引き出したと言って、自分が成果として引き出したことにしか興味がないのです。
 つまり、日本が今までアメリカのために何をやってきたのかということには、全く興味がないわけです。安倍総理に頑張れと言っても、そういうことを説明したところで、彼の頭にはなく、あといくらアメリカの防衛品を買ってくれるのかと言ってくるわけです。そこはもうディールの問題になるので、1兆円と言えばオーケーという話になるわけです。この人とまともに付き合っても仕方がないのです。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
9月30日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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【次回の記事】企業の想定為替レートと上昇する物価(福永博之)
【前回の記事】
トランプ大統領のしたたかな戦略(大前研一)

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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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