グローバル・マネー・ジャーナル

2017.10.4(水)

民族紛争を招きかねない各国独立運動 抑圧の動き(大前研一)

2017.10.4(水)
民族紛争を招きかねない各国独立運動 抑圧の動き(大前研一)
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民族紛争を招きかねない各国独立運動 抑圧の動き(大前研一)
【スペイン】カタルーニャ州 住民投票結果による今後の動き
 スペイン北東部カタルーニャ自治州で先月30日、分離独立を問う住民投票が行われる投票所のうち、およそ1300カ所を警察当局が制圧し、住民の立ち入りを禁止しました。スペイン中央政府は、投票は憲法違反として実力行使も辞さない姿勢を示していましたが、カタルーニャ州政府は日本時間の1日夕方からの投票を実施しており、混乱が広がる可能性もあります。
 今回はおそらく賛成多数になり、48時間以内に独立を宣言すると言っています。バルセロナを首都とするカタルーニャ地方というのは、自治をすでに確立していてカタロン語という言葉をしゃべります。スペインで我々がよく知っているピカソやアンドレス・セゴビアなどといった変わった天才的な人たちは皆、ここの出身なのです。
 スペインでは北の方にあるバスクも、かつては独立運動が非常に盛んだったところです。また、スペインの主な州と中央政府との関係を見ると、首都はマドリードですが経済的にはカタルーニャの方が首都よりも規模が大きいのです。他にガリシア州というのがあります。ガリシアは北西部に位置しますが、実はポルトガルに近いところで、言葉もスペイン語ではなくポルトガル語に近い言葉をしゃべります。もっともポルトガル語とスペイン語の違いは1ヵ月住めば話せるようになるという程度です。このように、スペインはかなり特色の違う地域の寄り合い所帯になっていることがわかります。そうした中で、かつてはバスク、そして今回のカタルーニャといったところが大きな問題になっているのです。
 今回は結果的には独立投票をすると思います。投票所を全て抑えられたら路上で紙を撒き、そこで投票しているのです。政府側も半端ではない妨害をしていますが、収めるのは難しいでしょう。かつてのバスクのような、テロリストがたくさん出てくるような状態にまではなっていませんが、これを押さえ込んでしまうとそうした事態にまで発展してしまいます。
 ただ、独立宣言した後、本当に独立をするプロセスは結構大変で、スペインからカタルーニャを除いてしまうと、やはりスペインの国力が5分の1なくなるわけで、大きく低下するのは明らかです。一方、物理的にはマドリードとバルセロナは日本でいう新幹線のようなものが通じており、2時間で結ばれています。仲良くやってくれれば良いのですが、これは尾を引きそうな問題です。イラクのクルド人問題もそうですが、このような動きが世界には多くあるというわけです。
【ドイツ】ドイツ連邦議会選挙の結果
 ドイツ連邦議会下院選挙の投開票が先月24日行われ、メルケル首相率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」が246議席を獲得し、第一党を維持しました。一方、進行右派のAFD「ドイツのための選択肢」が94議席を獲得し、初の国政進出で第3党に躍進。大幅に議席を減らした与党は今後、他の党との連立を模索することになりますが、安定した政治基盤を築けるかが焦点となります。
 メルケル氏は、半年、一年前には、もしかして負けると言われていました。難民をめぐるどん底の状態から今回の選挙を見ると、そこまでひどく負けておらず、メルケル氏はよく戦ったと思います。「難民受け入れをドイツ国民は誇りに思うべきだ」などと今の時代に言っていて、それでも選ばれるということ自体、私はすごいことだと思います。難民のピークは、実は2016年で、2017年になってからは減ってきている状況です。シリアもかなり落ち着いてきています。
 今回のキリスト教民主同盟はかなり議席を減らし、たしかにドイツのための選択肢がいきなり94議席となりましたが、ドイツでは5%以下の政党は議席0なのです。そのことが影響し、自由民主党も前回は4.8%で0でしたが、今回は80議席を取っています。そのような変化はありましたが、メルケル氏にとっては、ここから連立を組む交渉をすれば、おそらく幾つかのところがなびいて来るだろうと思われます。ただし、社会民主党は今度は組まないと言っているので、もう少し小さいところをかき集めなくてはならないでしょう。まさか、ドイツのための選択肢などはその対象にはならないので、それ以外のところと組むことになると思います。
 いずれにしても、ショイブレ財務大臣が退任し、より重要でシンボリックな、名誉的なポジションに行くと思われます。彼はドイツで最も安定した、信頼されている大臣で、海外からの信任も厚く、ギリシャ危機ではギリシャに改革を迫り、メルケル氏と組んでユーロについては守護神のような人物です。彼の退任によって、財務相という魅力のあるポジションが空くので、それを餌に、連立を図っていくということになるでしょう。こうした形で、これから連立の余地があるのではないかと思います。
【イラク】クルド人独立国家樹立に向けた動き
 イラクからの独立の是非を問う住民投票が先月25日行われ、開票の結果、独立賛成が92.73%に達したことがわかりました。自治政府は民意を示すのが目的で、直ちに独立はしないとしていますが、永年の悲願であるクルド人独立国家樹立に向けた機運が、一層高まる見通しです。
 90%以上の人が独立に賛成したものの、直ちに独立するわけではないと言っていますが、実はクルド人というのはオスマントルコの残党のような側面があります。イギリスとフランスが今のようにトルコ、イラン、イラク、シリアへと分割してしまったときに、ここに3000万人以上の人たちが国家のない最大の民族となったのです。例えば、トルコで見ると、4分の1の人口はクルド人と言われています。また、イランは17%、イラクは27%、シリアは15%がクルド人です。そして今回の独立投票を行ったのは、イラクのキルクークなど、最も油田の豊富なところで独立が選択されたということなのです。
 IS対策でイラクのクルド兵が非常に活躍したので、その勢いを買って今回の独立投票をしたわけですが、イラクもこのような独立は認められないとして非常に強く反発しています。ただ一番困るのはトルコだと言われています。トルコの場合には、東の方にクルド人が多く、そこで独立運動がもともとあり、一部はテロリスト化しているのです。したがってイラクでの独立を許してしまうと、トルコにとっても影響は大きくなってくるのです。
 今、トルコ、イラン、イラク、シリアは独立に反対していますが、スンニ派なので、サウジアラビアがどう出るかということによっては、さらに問題に火がついてしまうことにもなります。今のところ、ヨーロッパ、国連、アメリカあたりも、このイラクの中のクルド勢力の独立には反対していますが、IS対策で功績があったので、そこにどう報いていくのか考えなくてはいけないわけなのです。すでに自治区となっていて、自治は許されているのですが、独立、国家設立ということになると別の話だということで、その影響はイランやトルコにも及ぶことになるのです。
 しかし、もし、世界全体でこの独立運動を潰してしまったら、それこそ大変な民族紛争になり火を吹きかねません。イラクのクルド人がIS化してしまうこともあり得ると思います。
講師紹介
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株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
10月1日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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 それでは、次回のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!次週は休日のため、5月10日に配信いたします。