グローバル・マネー・ジャーナル

2017.11.8(水)

給料が20年間上がっていない日本の深刻な実態(大前研一)

2017.11.8(水)
給料が20年間上がっていない日本の深刻な実態(大前研一)
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給料が20年間上がっていない日本の深刻な実態(大前研一)
内部留保
 財務省が9月1日に発表した法人企業統計によりますと、企業が利益を蓄積した内部留保は、2016年度末の時点で406兆2348億円と、初めて400兆円を超えたことがわかりました。一方、企業が稼いだ付加価値のうち、どれだけ人件費に回したかを示す労働分配率は、アベノミクスが始まる前の2012年度には72.3%でしたが、2015年度には67.5%にまで低下しています。
 労働分配率に関しては、成長期には設備投資などがあるので、基本的に50/50と言われていましたが、今では三分の二が労働分配率となっています。日本の場合には企業が稼ぐ利幅が非常に薄く、三分の二は人件費が持っていってしまうわけです。したがって、これ以上人に手厚くするのも難しいのです。かつ、投資機会がない、成長機会がないということなので、大きな設備投資をする企業は少ないのです。こうしたことから、内部留保が積み上がってしまうわけなのです。
 労働分配率のグラフを見ても、現在落ちてきているわけですが、それでも三分の二という割合は世界的に見ても非常に大きいです。したがって人件費が、企業が創出した付加価値のかなりの部分を持っていってしまう状況です。
 これ以上人に賃金を払う場合には、生産性の向上がしっかりとないといけません。そうなってくると、事業機会が増えずマーケットが伸びていなければ、人をクビにしなければいけないという問題に直結するのです。そうしたことを全部考えていく必要がある問題なのです。
労働生産性
 安倍首相が1日の特別国会で第98代総理大臣に選ばれ、第4次安倍内閣が発足しました。首相は記者会見で、全ての閣僚を再任し、引き続き経済最優先で取り組むと表明。また、人づくり革命と生産性革命を両輪として、デフレ脱却に向けて税や予算などの政策を総動員する考えを示しました。
 安倍首相が経済を理解していないのはご存知の通りです。人づくり革命と生産性革命を両方やると矛盾が起こります。生産性革命については、日本の場合には間接人員の生産性が低いとして、それをやっていくということはコンピューター化、ロボット化を進めることになります。
 そうなると今度は、今までの働き方しか知らない人達はやる仕事がなくなって失業が溢れます。ですから、本当の人づくり革命というのは、機械などが出来ないことをやらなくてはいけないわけです。しかし、今の大学や社内の教育制度ではそういう人は出てこないのです。
 首相は生産性革命と人づくり革命で頭の中がどのようになっているのかとても想像できません。二つを両輪としてデフレ脱却すると言っているわけですが、この三つの言葉「デフレ脱却」「人づくり革命」と「生産性革命」は、実は相矛盾する言葉なのです。両輪だとか、デフレ脱却の政策だなどと言っていますが、私には実態が分かっていないとしか思えません。
 これがどのくらい深刻な問題かと言うと、まず、一人当たりの労働生産性を見てみます。日本は少なくともOECDの中では最下位クラスで、あのトラブルを起こしているギリシャよりも低いという惨憺たる状況です。また日本人の総実労働時間は、少しずつ下がってきています。これは就業人口が減っているというやむを得ない面もありますが、同時に、残業などが少なくなってきているということが問題です。
名目賃金の推移
 そしてもっと深刻なのが名目賃金です。ヨーロッパとアメリカは、95年からどんどんと上がってきて2倍近くになっています。その中で、日本だけが落ちてきているのです。アベノミクスで反転していると言われていますが、反転などしていないのです。アベノミクスの効果などは全く出ていません。これが日本の実態なのです。
 日本では給料など上がっていないのです。そのかなりの部分は、日本が得意だった製造業が中国など他国へ行ったことによるものです。残ったところは給料を上げれば倒産してしまうので上げられません。かつ、シリコンバレーのようなところは日本ではなかなか出てこないということで、付加価値の高い仕事のできる人が非常に少ないのです。
 このことは日本にとってものすごく深刻な問題で、賃金が20年間上がっていないというのが現実なのです。この問題をどう捉えるのかが非常に重要なのです。これについて何も危機感を持たずに、人づくり革命、生産性革命と言っているわけです。
 今の日本の多くの人は定型業務をやっているので、その定型業務について生産性向上をやろうとすると、その仕事を機械が取っていってしまうのです。そうして自分の仕事を機械に奪われた人たちが、何か全く新しい、機械には出来ないことをしなければいけないのです。
 スウェーデンなどは、このことに一生懸命取り組んできたわけですが、日本の場合にはそうした動きはありません。かと言って大学に戻っても、大学の先生もそうしたことを教えられるように社会とともに進歩していっている大学は、ほとんどないのです。そして、こうした状況を、少なくとも私は安倍政権が理解しているとは思えないのです。
 このような状況を踏まえて、我々もBBTの大学や大学院で従来の大学とは全く違うことを教えていますが、文科省はそうしたことに対して否定的なのです。もっと伝統的な、アカデミックなことを教えろといい、しかもドクターなどの学位を持った人たちが教えるのが大学というものだと言うのが文科省なのです。
 少なくとも安倍政権はそのことを理解していない上に、この名目賃金の比較を見て、こんなものかと怒りもなく、政治問題化しないというところに調子の良さを感じます。この状況を5年間放置してきている安倍政権が、同じキャビネットで同じ人にやらせ、そして同じことを宣言しているということは、最大の問題だと言えるのです。
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大前 研一
11月05日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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