日経新聞は23日、「『伝統的統計』景気とズレ」と題する記事を掲載しました。これは、昔は景気後退局面で悪化した雇用関係の指標が現在は改善し、また電気使用量と景気の連動性も薄れたと指摘しており、日本社会の構造が変化し、経済の変化に対する個人や企業の反応が変わったことが背景にあるとし、代わりに経営者らの心理を調査した景気ウォッチャー調査などが注目されているとしています。
こうした記事には惑わされてはいけません。実は、景気を左右するのは人間の心理というものなので、良いと言っていれば良くなり、悪いと言っていれば悪化するというのが、超成熟経済である日本の特徴なのです。このことは10年前に私が、「大前流心理経済学」で説いています。貯めないで使えば景気は良くなるのです。
日本はGDPの3倍の貯蓄があり、人々は死ぬまでその大半を持っていってしまうので、これを生きている間に使って人生をエンジョイし、イタリア人のように過ごせばよいのです。しかし国が信頼されていないので将来の不安が取り除けないのが日本なのです。つまり、景気は、国に対する信頼がないから悪くなり、信頼があれば使ってしまえばいいので景気は良くなるのです。
安倍政権になり、アベノミクスで刺激策を打ち、三本の矢などと打ち出した時にすっと景気が良くなったのは、まさにこの心理経済学に沿っているといえます。しかし、周りを見てもやはりそうはいかないことに気づき、税金は上がっても給料は上がらず、あまり実態は良くなっていないということで冷えてしまったのです。そして消費税が8%になるというので駆け込み消費をした後は、本当に良くなっていないということで落ち込んでしまったというのがここまでの流れなのです。
新聞を読んでいると、どちらかというと政府の言い分に引きずり回されます。しかし自分の心で考えてみると、実態が見えてきます。
ライフプラン、人生設計がきちんとあり、それに見合うファイナンシャルプランがあり、それから見て自分はこれだけ使っても大丈夫だと思えば、あるいは、今のように金利の安い時に借りて、老後に住む家を作るなど自分の人生でやりたいことをやっていけば、景気は良くなるわけなのです。実際に心理というものが金利やマネーサプライなどよりも景気に大きな影響を与えるのです。そういう意味でこの「心理経済学」という本は、世界に他に例がない画期的な本であると思います。
そしてここが、トマ・ピケティやポール・クルーグマン、竹中平蔵らが、日本に対して見方をはずしている理由でもあります。21世紀の経済は、金利やマネーサプライで決まってくるという単純理論とは違い、日本の場合には、貯めたものをいかに使うかという今までの世界の経済の中にはないような状況なのです。心理経済学は全く新しいジャンルであり、しかも国としては日本にしかないものです。
もちろん韓国は日本と同じように少子化が続き、確かに高齢化していますが、彼らは貯める文化ではありません。まず借りるというクレジット社会なのです。日本の場合はGDPの3倍もの貯金を、いかに使うかが一番の問題であり、金利が1%を割っていても借りないという心理なので、もっと真面目に心理経済学に取り組まない限り、景気は良くならないと言えるでしょう。見かけだけなら市場にお金をどんと供給すれば良くなるように思われていますが、実は全然効果がなく、その理由はまさにここにあるのです。
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