安倍首相は勘違いをしていて、そうすれば設備投資と賃金に資金を回してくれると思っています。しかし、何度も言っているように、設備投資や賃金はP/L、損益計算の中の数字であり、純利益に法人税率をかけるわけですが、純利益は内部留保と配当に回るものです。法人税率を下げれば株主は喜びますが、実際あまり意味はないのです。大きく勘違いをして法人税率を下げさせ、財界も法人税率を下げれば投資や賃上げを考えると言っているので、そちらも大きくずれているのです。こうした基本的な議論について、マスコミもきちんと整理してあげないと、ド素人の議論がまかり通ってしまいます。
今回の税制改革を確認すると、法人税率を下げ、外形標準課税でその失った分を奪い返すという内容です。軽減税率は意味不明ですが、外食と酒は対象外ということになっています。自民党が外食を入れろと突然言い出したので驚きましたが、外食業者はたいへん多いので選挙に影響するからでしょう。公明党は加工食品と言っていましたが、実際投票する人の数から見ると、外食産業の方が多いのです。そこで自民党は唐突に外食も入れろと言い出したものの、高額なものも軽減税率の対象になるのかと言われ引っ込めたという経緯です。まさに見え見えの選挙対策でした。
政府は税制を変えるたびに、増減税、同じくらいの一体改革をします。しかし、今までで結果的に税収が増えたのは、思い切った減税をやったときなのです。そして増税の対策をしていない時なのです。例えばレーガン大統領の時には所得税を半分にしました。それにより絶対額では所得税が増えたのです。理由は、ごまかしたり他所の経費に回していた人が、所得税を払ってキャッシュを取ったほうが得だと考えたからです。ロシアでも、プーチン大統領になってから税金をいきなり半分以下に下げたところ、税収が増えたのです。インドネシアでも同じことが起きました。税率が高いのでごまかしますが、低くすると正直に申告する人が増えるのです。
日本のように一方を下げるから他を上げるという政策をしていると何が起こったかよくわからず、誰も反応しないということになってしまいます。日本はこうしたことを繰り返しているのです。レーガンやプーチン、インドネシアのムルヤニ財務大臣のような思い切った減税をしてその手当てもせずにうまくいった例を、日本の当局は全然知らないのです。細かいところを上げたり下げたりと、マイクロアジャストメントを繰り返すのは茶番劇であり、経済に何の効果もないことで時間の無駄だと思います。
軽減税率も一兆円の財源は来年の実施の直前まで議論を先送り、インボイス(税額票)は2021年に5年間先送りしましょうということになりました。プライマリーバランスの推移を見ると、今は対GDPで-3%~-4%で、2020年までにゼロになっていなくてはいけないのですが、もっとも好意的な見方でも-1%です。日本の危機的な国家債務の問題は全く改善しないというわけなのです。
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