グローバル・マネー・ジャーナル

2015.12.23(水)

安値に突入する原油価格の行方(大前研一)

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安値に突入する原油価格の行方(大前研一)2015/12/23(水)


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今回のテーマ

安値に突入する原油価格の行方(大前研一)

【原油価格】6年10カ月ぶり安値

 8日のNY原油先物相場は3営業日続落し、一時1バレル36ドル台と、6年10カ月ぶりの安値をつけました。産油国のシェア争いを背景に、先週末のOPEC総会で生産目標が棚上げされたことから、市場では世界的な供給過剰が長期化するとの懸念が広がり、減速する新興国景気を一段と冷やしかねない現状となっています。

 大口の供給国であるロシア、サウジに加え、今度西側と国交を回復する予定のイランといった巨大産油国が、この値段では全くダメだと言いながら量を売って稼ごうとしています。そうすれば少なくとも外貨が入ってくるからです。それによって歯止めがかからなくなっているわけなのです。一方アメリカ側も、シェールの生産があるので余計に歯止めがかからず、ここまでの価格下落となっています。

 ただこれは2009年時の価格に近づいているわけで、この世の終わりという状況ではありません。今後は徐々に締めてきて、より少ない石油でより多くの収入が得られるような方向に行かないと、ロシアやサウジも非常に苦しいと思います。サウジの場合でもこの値段だと国が持たないというところまできているのです。産油国はいずれもたるんだ経済政策をとってきているので、この値段だととりあえずのキャッシュは回るものの、安定した政権運営はできないということになるのです。サウジでも若干ガタが来ているわけで、誰にとっても得な事はない状況です。

【日本】7-9月GDP改定値 前期比年率1.0%増 ~内閣府~

 内閣府が8日発表した7-9月期のGDP改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比年率1%増となりました。速報値の0.8%減から2四半期ぶりのプラス成長に上方修正したもので、速報値の発表後に明らかになった民間企業の設備投資が大幅に上振れたことが寄与したということです。

 これを見ていると、ごまかされているのか、統計の数字の取り方が変わったのか、実態がよくわかりません。経済界はそうした時間がない中、速報値と実際に確認した数字がこれほどまでに違うのは安倍首相がいじったのではないかという感じさえします。今後は数字が出てきても一喜一憂できず、この数字には意味がないと言うことです。政府が数カ月後に好きな数字に着地させるという話なのです。

 実際に実質GDP成長率の推移を見ると、赤丸急上昇で伸びているという感覚では全くありません。安倍黒バズーカが見事に炸裂しているとは到底言えません。また、内訳別の成長率を個別に見ても、修正後の数字でも大した伸びにはなっていないことがわかります。こうしたことを見る限り、企業の設備投資が少し増えたといっても全体では誤差の範囲に過ぎず、アベノミクスの3本の矢が見事に効果を発揮しているというふうには見えないのです。+1.0と言われると、-0.8と比べかなり印象が違いますが、数字をいじってこうなったと言われても、どの数字が正しかったのかよくわからないということになります。

 今、安倍政権はすべての役所にGDPの計算の仕方が間違っているのではないかとして、もう一度それぞれの役所で吟味するように言っています。役人の方はずる賢いので、これだけ直しましたと挙げて、得点を稼ごうとしたということも考えられるのです。

【日本】税制改正 法人実効税率29.97%引き下げ明記

 自民党税制調査会は10日、2016年度税制改正の大綱案を了承しました。これは、法人実効税率を現在の32.11%から29.97%に引き下げる方針を明記したもので、この財源として来年度から実施する外形標準課税の拡大については、2016年度から3年間は中堅企業に限り、納税額が増える分の支払いを25~75%免除する方針です。

 今回の税制改革は、自民党税調は宮澤氏が会長をしていますが、軽減税率をめぐって公明党の井上幹事長と自民党の谷垣幹事長といった党の幹事長同士がほとんど意味不明の葛藤をして事柄を決めてしまうという状況です。新聞記者もその葛藤の方を追いかけて、税調の方にはあまり関心が行かなかったと言えます。

 今回の考え方を見ると、法人税率を下げて29%にしろと安倍首相に言われ29%にしたわけですが、実は11年度が39%だったので、そこからちょうど10%下がることになります。10%下がった効果を検証せずに、今回32.11%から29.97%に下げることに意味はあるのでしょうか。この間に10ポイント法人税を下げて、実際は設備投資が増えていないのです。という事は、あと数ポイント下げて設備投資が増えるとは限らず、むしろ増えないと考えるべきでしょう。

 世界の主要国と比べると、ちょうどドイツと同じレベルになります。アイルランドの12.5%を筆頭に、ヨーロッパの平均は25%で、世界の法人税率の低い所と比べて日本はまだまだ高いわけです。法人税率を下げることによって設備投資に回るとは考えられない上に、これでは外国の企業が日本に来て事業をやるということも考えられないのです。17%のシンガポールなどまだまだ低いところはたくさんあるのです。何のために29%にするのか全く不明であり、安倍首相の勢いに押されて29%にするとしか思えません。

 安倍首相は勘違いをしていて、そうすれば設備投資と賃金に資金を回してくれると思っています。しかし、何度も言っているように、設備投資や賃金はP/L、損益計算の中の数字であり、純利益に法人税率をかけるわけですが、純利益は内部留保と配当に回るものです。法人税率を下げれば株主は喜びますが、実際あまり意味はないのです。大きく勘違いをして法人税率を下げさせ、財界も法人税率を下げれば投資や賃上げを考えると言っているので、そちらも大きくずれているのです。こうした基本的な議論について、マスコミもきちんと整理してあげないと、ド素人の議論がまかり通ってしまいます。

 今回の税制改革を確認すると、法人税率を下げ、外形標準課税でその失った分を奪い返すという内容です。軽減税率は意味不明ですが、外食と酒は対象外ということになっています。自民党が外食を入れろと突然言い出したので驚きましたが、外食業者はたいへん多いので選挙に影響するからでしょう。公明党は加工食品と言っていましたが、実際投票する人の数から見ると、外食産業の方が多いのです。そこで自民党は唐突に外食も入れろと言い出したものの、高額なものも軽減税率の対象になるのかと言われ引っ込めたという経緯です。まさに見え見えの選挙対策でした。

 政府は税制を変えるたびに、増減税、同じくらいの一体改革をします。しかし、今までで結果的に税収が増えたのは、思い切った減税をやったときなのです。そして増税の対策をしていない時なのです。例えばレーガン大統領の時には所得税を半分にしました。それにより絶対額では所得税が増えたのです。理由は、ごまかしたり他所の経費に回していた人が、所得税を払ってキャッシュを取ったほうが得だと考えたからです。ロシアでも、プーチン大統領になってから税金をいきなり半分以下に下げたところ、税収が増えたのです。インドネシアでも同じことが起きました。税率が高いのでごまかしますが、低くすると正直に申告する人が増えるのです。

 日本のように一方を下げるから他を上げるという政策をしていると何が起こったかよくわからず、誰も反応しないということになってしまいます。日本はこうしたことを繰り返しているのです。レーガンやプーチン、インドネシアのムルヤニ財務大臣のような思い切った減税をしてその手当てもせずにうまくいった例を、日本の当局は全然知らないのです。細かいところを上げたり下げたりと、マイクロアジャストメントを繰り返すのは茶番劇であり、経済に何の効果もないことで時間の無駄だと思います。

 軽減税率も一兆円の財源は来年の実施の直前まで議論を先送り、インボイス(税額票)は2021年に5年間先送りしましょうということになりました。プライマリーバランスの推移を見ると、今は対GDPで-3%~-4%で、2020年までにゼロになっていなくてはいけないのですが、もっとも好意的な見方でも-1%です。日本の危機的な国家債務の問題は全く改善しないというわけなのです。

講師紹介

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大前 研一
12月13日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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本年も大変お世話になりました。次週はお休みをいただきますため年内最後になりますが、良いお年をお迎えください。それでは、次回のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!