完全雇用に近いところでお金をばらまく、いわゆるケインズ的な刺激や、ヘリコプターマネーのようなことをやれば、当然のことながらハイパーインフレになる可能性が高まります。しかしそれでもそうならないのは、お金を持っている人たちは急いでいない上に、マーケットに欲しいものもないからです。
日本の場合には、給料を少し上げても将来が不安だからそれを貯めてしまいます。1700兆円の個人金融資産は全く表に出てきません。将来への不安やいざと言う時のためにと言う訳ですが、経済政策はこのお金が出てくるようにするものでなくてはなりません。賃上げでもなく、非正規雇用の正規化でもないのです。
アベノミクス全体の経済の認識が間違っていて、これほど間違っているものをさらにこの道しかないと言って続けているので、大変大きな問題です。そこに気がつく人が安倍首相のアドバイザーの中に1人でもいればなんとかなるのでしょうが、絶望的な現状認識の間違いが問題の元になっています。お金をばらまいたところでどうしようもないのです。
しかも安倍首相の周りの多くの人は株が上がれば景気が良いと思いこんでいます。株価の上昇を期待しているわけですが、実際には社員をどんどんクビにして企業収益が上がれば株価は上がるのです。株が上がることがご褒美のように思っていますが、株は企業の将来価値が上がってこなければ上がるわけがないのです。そこを勘違いして株が上がっているからいいだろうと言っていますが、株が上がることは景気には関係ないのです。そうした根本的なことが本当にわかっていないのです。
また日経新聞は「金融緩和では止められない成長力の低下」と題する記事を掲載しました。これは、各国の中央銀行の首脳らが集う国際経済シンポジウムで、低成長、低インフレ下で苦戦する中銀の政策限界論を巡り、激論が交わされたと紹介しています。そこからは、経済の勢いが構造的に弱まっているときには、金融政策が効果を発揮しにくいことが浮かび上がったとし、各国政府はこうした金融政策依存に陥らないよう潜在的な成長力を引き上げる方策に全力を挙げるべきとしています。
これも笑ってしまうような状況です。私の本を一冊でも読めばすぐわかることを、このように偉い人たちが多く集まって議論しているというのです。昔の理論のまま、おかしいおかしいと言っているレベルの人たちが集まっているのです。
金融緩和では成長力の低下は止められない、これは当たり前です。成長力とは、やはり人間が増えるとか、育っているとか、そういう理由がないといけないのです。将来に対して本当に期待が持てて、この国の需要はまだまだ大きくなると思えば、放っておいても設備投資をします。たとえ金利が5%でもお金を借りて設備投資をしたものです。
しかしそのように人は増えないし、需要も伸びないと思えば、たとえゼロ金利でも誰もお金を借りて投資はしないのです。ですから、こうした会議に集まっている人たちは頭が古いといえます。 日本は老化経済の最先端を行っているので、日本の経験としてもっと意見を言えばいいのですが、揃って潜在成長力を引き上げようなどと言っていて、それはどう考えても無理なのです。日本のような国では投資をする理由にもならないのです。
もし政府が、国民の老後は全て面倒を見ます、心配ありませんと言えば、皆、このお金を貯めずに使うことができます。しかし、30歳の人に対するアンケート調査で最も多いのが貯金を増やすことで、その理由は将来に対する不安だと言うのが現状です。30歳ですでに将来に対する不安があり、65歳でも不安があり、80歳になっていざという時のためなどと言い、誰もいつまでもお金を使わないのです。
政府が刷りすぎたお金は全部余ってしまっているわけです。こういうおかしな政策を、日本だけではなくアメリカから来たクルーグマンなども一緒に皆でやっているのです。私に言わせると、もっと現実を見る必要があるのです。現実とは何かというと、マクロ経済ではなく、ミクロ経済です。個々の人々の財布がどうなっているのか、そこを見る必要があるのです。
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