グローバル・マネー・ジャーナル

2016.9.21(水)

マイナス金利が及ぼすプラスとマイナスの影響(西岡純子)

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マイナス金利が及ぼすプラスとマイナスの影響(西岡純子)2016/09/21(水)


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今回のテーマ

マイナス金利が及ぼすプラスとマイナスの影響(西岡純子)

日本経済は長期停滞、その要因とは?

 日本経済は長期停滞が続いています。潜在成長率はトレンド成長率とも言いますが、この数字はその国の実質金利に収斂する傾向があります。

 日本の場合、潜在成長率は80年代後半のバブル期には4%を超えていました。それがバブル経済の崩壊とともに落ち込み、2000年代に入ると中国経済の回復とともに持ち直す局面がありましたが、リーマンショックをきっかけに再び大幅に下がり、震災もあってさらに落ち込み、足元は少し上がってきていますが、達観してみるとほぼゼロという状況です。

 潜在成長率は、毎四半期発表されるGDPのようにバタバタと上下に動くものではなく、その経済に存在する労働資本や生産設備等が平均的に稼働したときに達成される成長率です。そこには生産性も含まれます。それぞれを足し上げたのが潜在成長率となるわけです。

 そこで、就業者数と労働時間を合わせた労働投入に注目すると、90年代に入ってからずっとマイナス方向に定着しがちになっています。人が減り始めたのは2013年ですが、それ以前の段階で、まず90年代初頭から労働時間が減り、90年代後半からは労働参加率が下がり始め、そして働く人の数、つまり人口が減ってきて、トリプルパンチとなっています。これが長期に渡り成長率を押し下げる方向に効いてきました。

 設備投資に関連する資本投資は、維持更新投資があるので基本的にはプラスが続いてきました。80年代後半はバランスシートの調整が進む中でもプラス成長を続けたわけですが、リーマンショックを境に0ないしはマイナスとなる局面もありました。設備投資がほとんど出なくなってしまったのです。設備投資をしない経済で生産性が上がるわけがなく、生産性も落ちてきました。当然、三つを足した潜在成長率はほぼゼロという状況です。

 これを何とかしなくてはいけないということで、アベノミクスでは企業に設備投資をしやすいような投資減税を拡充したり、人を増やすための子育て支援等に非常に力を入れているわけです。ただ、労働投入の部分がこの先どうなるのか、2060年までの将来推計を見てみると、-0.2%をスタート台として、出生率が現在の1.4から1.8に上りそれが継続するとした場合、子供の数は増え、2030年あたりには労働人口が増える局面が現れます。その後、団塊世代ジュニアが抜け始めるので、労働市場はまた一旦落ち込みます。

 ただ人口動態上、子供の数が増え続けると労働投入はじりじりとマイナス幅を縮小します。おそらく、この上昇圧力により潜在成長率も上がると予想されます。しかし残念ながら、出生率1.8のままをキープできたとしても、この労働投入はその後もマイナス圏から出ることができないのです。

 一方、もし出生率が1.4のまま変わらないとした場合、団塊世代ジュニアが抜けて労働市場のパイがどんどん小さくなり、一瞬戻る局面はあるものの、またマイナス方向に押し戻されるという見通しです。その場合、ボトムでは労働投入は-0.5まで落ち込みます。

 もし企業が設備投資を全くしない状態が続けば、日本の潜在成長率はもはやマイナスになってしまうのです。先進国でありながら、潜在成長率がマイナスであるような異常な経済はあまりありません。ただ、日本のこうした労働市場の状況から考えると、そうなる事は必ずしも否定できません。

マイナス金利が及ぼすプラスとマイナスの影響

 そうした中、当局としてはひとまず日銀に頼り、即効性のある金融政策で何とかデフレ脱却を進めてもらおうと、2013年に異次元緩和が導入され、今年1月29日にはマイナス金利の導入がアナウンスされました。実際にマイナス金利が効いているのかどうかを検証してみます。

 マイナス金利は、キャッシュを多く持つ企業にとっては、大口預金に将来もしかしたら手数料という発想が出てくる可能性があります。そうした発想があれば、大口預金を持つ企業は、コストが発生、つまりペナルティーを支払うことを想定するわけです。そうかもしれないと分かっていながら、手元流動性の売上高比率はどんどん上昇していて、上昇が止まる兆しも見えません。

 金利が下がり、イールドカーブそのものがフラットになりましたが、それでも負債比率は下降傾向をたどったままです。確かに、ごく一部には不動産業を中心に、負債を固定化したり、固定負債を長期化したりという動きがあるのは事実ですが、それはごく一部の産業に限られています。

 その中で、企業の利益剰余金は上昇ペースが上がっているようにさえ見えます。直近の水準は367兆円で、日本のGDP、約500兆円と比べて、7割近くの内部留保が溜まってしまっているのです。確かに、自己株取得が増え、株主還元を増やすなど、企業改革が進んだことはアベノミクスの動きの一つではありました。しかし、自己株取得の増加は約4兆円程度にとどまっていて、利益剰余金の積み上がり方の方が圧倒的に多いのです。資金の有効活用がされていないのは明らかな事実だと思います。

 一方、マイナス金利の影響もいろいろなところに表れています。銀行間で資金をやり取りする日々のマーケットであるコール市場の残高を見ると、これまでは20兆円前後が平均値だったわけですが、マイナス金利が導入されて大きく落ちてしまいました。コール市場は政策金利の水準に非常に近いので、いち早くマイナス化しています。

 マイナス化すると、マイナス金利で調達できる金融機関がいる傍ら、その資金を出す(運用する)金融機関にとっては、わざわざマイナス金利分を払って運用するという異常なマーケットなので、さすがにその市場残高は落ちるわけです。ただ、残高はゼロでは無く、金融機関が調達できなくはないので、一応の市場機能は維持されていることが日銀の主張の一つでもあります。

 住宅ローン基準金利はどんどんと下がり、8月現在で1.1%まで低下しました。もちろん過去最低水準です。ここまで下がると、金利コスト自体も減税対象になるので事実上ゼロコストで住宅ローンを借りることができます。ただ、これは借り換え需要がほとんどで、新規の需要にはあまりつながっていないのが実態です。

 マイナス金利政策が効くかどうかは、間に挟まる銀行が貸出を伸ばせるかどうかに全てかかっています。確かに、不動産向けの貸し出しは非常に伸びていますが、全体の貸し出しの残高はあまり伸びておらず、減速しているように見えます。

 また、日銀の主張としては、中立的な経済の均衡金利はほぼゼロですが、自分たちの金融政策のおかげで、実際の実質金利(市場の名目金利-インフレ率)は過去最低水準まで落ち、このギャップが過去最大まで広がったと言っています。ここまで実質金利を下げているので、経済の刺激効果がないわけがないというのが日銀の主張なのです。

 マイナス金利は確かに多少は効果はあると思います。ただその効果とコスト、金融機関に対する負担を比較すると、やはりそろそろ負担のことも真面目に議論しながら進める必要があるだろうと思います。

 マイナス金利政策が続くことによって、いくつかの問題が発生します。深刻になってくると目に着くのが、例えば、予定利率や割引率がどんどん低下してしまうという問題です。

 生命保険会社や年金基金などは、支払い期間が非常に長い負債を持っています。生命保険会社の場合には、保険支払いの準備金を負債としてたくさん持っており、一方、その負債に見合う資産を運用することで約束している予定利率がどんどん下がってしまいます。市場金利の低下で負債の評価額が一方的に膨らむと、今までであれば超長期国債などを中心に国債を買い入れて資産の時価を膨らますことができました。

 しかし、超長期の金利そのものが0ないしはマイナスになってしまったことで、資産と負債のデュレーション・ギャップは広がり、さらに将来的にマイナス金利の国債を持ち切ってしまう投資家にとっては国債の償還の際に大きな損になります。

 生命保険会社や年金基金といった、持ち切り前提で多くの国債を投資する投資家にとっては、こうした金利の大幅な低下とマイナス化は非常に深刻な問題なのです。金利が下がり投資が刺激されるという単純な問題ではなく、生命保険や年金など将来の国民の所得につながる分野にまでマイナス金利の影響が及んでしまうという自体は避けるべきではないかと思います。

講師紹介

ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 講師
三井住友銀行 市場営業統括部
チーフ・エコノミスト(日本)
西岡 純子
9月13日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
詳しくはこちら

資産形成力養成講座 加藤

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 それでは、次回のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!