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2017.2.8(水)

鴨ネギになるな! 超金融緩和と経済動向の違いを把握せよ!(大前研一)

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鴨ネギになるな! 超金融緩和と経済動向の違いを把握せよ!(大前研一)2017/02/08(水)


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今回のテーマ

鴨ネギになるな! 超金融緩和と経済動向の違いを把握せよ!(大前研一)

【イタリア】BREXITの裏で進行したイギリス経済の悪化

 日経新聞は先月31日、「イタリア国債 売り再燃」と題する記事を掲載しました。イタリアの10年物国債利回りは約1年半ぶりの高水準に上昇しました。これは前の週にイタリア憲法裁判所が示した判断を機に、選挙制度改正と早期の総選挙実施が意識され始めたことを受けたものです。

 30日にはイタリアの銀行最大手ウニクレディトが、2016年末の自己資本比率が欧州中央銀行の要求を満たさない可能性があると発表しており、次の政治リスクの震源地はイタリアになりそうです。

 これはまさに、トランプ旋風、BREXIT、フランス選挙などと言っているときに、実はイタリアで問題が進行していたということです。イタリアでは金融機関1位と3位が非常におかしなことになり、今までは3位の銀行が騒がれていたわけですが、イタリア最大のウニクレディトもおかしいとなり、国債の売りにつながったのです。

 リスクとしてイタリア国債を売り抜けることに走り始めているわけで、この時点でドイツがもう少し安定していれば良いのですが、ドイツでもドイツ銀行がヨーロッパ最大のリスクになってしまっているという状況です。支えるものがなくなってしまっているわけです。アメリカに気をとられている間に、ヨーロッパの方がイタリアから崩れ始めているのです。

 以前はギリシャでしたが、ギリシャが崩れてもたかが知れています。ギリシャとイタリアではオーダーの桁が変わるのです。そしてスペインやポルトガルも似たような状況となってきて、ヨーロッパがずるずると崩れてしまう可能性がドバイ危機の頃からありました。

 それが今ここにきて再び、10年債利回りが急激に上昇して問題が再燃してきているのです。不良債権比率ではイタリアは欧州主要国の中で第5位ですが、その他の上位の国の規模はたかが知れています。イタリアはやはり大国なので不良債権比率が15%は大き過ぎるのです。

鴨ネギになるな! 超金融緩和と経済動向の違いを把握せよ!

 トランプ大統領は3日、オバマ政権が金融規制改革法ドッド・フランク法の下で強化した金融規制を、抜本的に見直すよう指示する大統領令に署名しました。金融機関の負担を減らし、融資しやすくする方向で規制緩和を検討するもので、金融危機の再発防止を最優先にしてきた金融行政を転換することになります。

 これは効果が出てくるのに時間がかかります。リーマンショックの後かなり規制をきつくしたものを、撤廃しようと言うのです。証券業務と銀行業務を分けるグラス・スティーガル法はアメリカでは廃止されましたが、それについては復活させようとしています。

 今、金融関係の株が大きく上がり、皆が有頂天になっていますが、もう少し細かい事が出てこないとこれが良いとも悪いとも言えません。ただ株を煽って上げていくには良いことだと言えます。しかしこの規制は、リーマンショックの時のような、イカサマな商品を売りまくって、最後にはみんながひっくり返ったようなことの再発防止のために導入したもので、それを取っ払ってしまおうと言うわけなのです。

 好きなようにどんどん貸し出せるので、安易な景気対策にはなるものの、それが長期的にどのようなマイナスの影響につながるのかということは、すぐには見えないものなのです。これについては即座に善し悪しを判定するのは非常に難しい、そういった部類の大統領令であると言えます。

 またトランプ大統領は先月31日、「日本が長年、何をしてきたかを見ろ」と、日本や中国が為替操作して通過安に誘導していると述べ、日本の為替政策を批判しました。10日に行われる日米首脳会談でも、貿易政策に加え、為替政策についても問題提起される可能性があります。

 これはカリフォルニア大学アーバイン校のピーター・ナヴァロという、経済関係の一番上位の委員会のまとめ役をやっている人物が関わっています。彼は、Death by China、つまり、中国によってアメリカが殺されるという本を書いたり、映画を作ったりしています。

 彼の言い分は少しモデルが古く、製造業を前提にしています。中国は当然為替を操作していて、日本もアベノミクスによって為替を操作しているとし、これによって円安が進み、日本企業の輸出競争力がついていると主張しています。

 円安が進んだのは一部事実ではありますが、競争力の面から見ると日本は現地生産が多いので、アメリカにはもうそれほど輸出していないのです。したがって、為替の円安でつけた競争力の分だけ輸出しているかというと、そういった産業はもはやあまりないのが現状です。

 一方、安倍黒(安倍首相・黒田日銀総裁)が為替を円安の方向に振り、日本の景気を良くして、株も高くして、GDPの2%成長を達成しようとしたことはまちがいないので、それを為替操作だと言われるのは、日本としては冗談だろうという印象です。しかしピーター・ナヴァロという人はそういう考えの人なのです。

 そして、実は同様のことを今度はドイツに対しても言っているのです。ドイツは本来、ドイツマルクであれば日本と同じように強くなったはずなのに、弱い国々と一緒にユーロになったので、ユーロ圏の弱い国で自分の強さを薄めて、結局ユーロは弱くなっている、その弱さをもってドイツの競争力につなげている、その意味で為替操作だと言うのです。

 そして彼はさらに突っ込んで、ユーロを解体しろ、ドイツはユーロに入るな、弱い奴と一緒に化けるな、などと主張するのです。そのような議論で、ユーロ解体という話となると、やはりヨーロッパとの間では死闘になってしまうでしょう。

 たまたまBREXIT、フランス選挙、そしてドイツの選挙という時期です。アメリカからユーロ解体を言われているとなると、選挙民もこの流れに乗って、ル・ペンのような人が勝ってしまう可能性もあります。彼は他国に対して極めて危険なことをやっていると言えるのです。ここに大きな問題があるのです。

 しかし、もともと日本が安倍黒政策に向かった理由は、アメリカがQE1、QE2、QE3と、超金融緩和を三回に渡って行い、ゼロ金利にもって行ったのを真似しただけなのです。今アメリカは緩和が終わって少し金利を上げ始めているので、今になって調子の良いことを言うなという印象です。アメリカこそ、緩和で為替政策の先頭を走ってきたのではないかと、はっきり切り返せる人間を送らないとだめなのです。

 ですから、今は行くべきではないのです。今行くと、飛んで火に入る四人様、ということになるのです。まさに、鴨がネギを背負ってきたという状況です。今のようなことを全部わかって、アメリカに切り返せる人間はなかなかいないでしょう。

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 トランプ新米大統領が就任し、続々と大統領令を打ち出しています。今後の米経済をどのように予見し、マーケットに織り込まれていくのか。これまで以上に世界経済についてじっくり考えていく必要があります。

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 それでは、次回のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!