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2017.4.5(水)

離脱交渉開始 顕在化してきたBREXITのリスクとコスト(大前研一)

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離脱交渉開始 顕在化してきたBREXITのリスクとコスト(大前研一)2017/04/05(水)


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今回のテーマ

離脱交渉開始 顕在化してきたBREXITのリスクとコスト(大前研一)

【EU】「マルチスピード構想」で伝統の精神変質

 日経新聞は先月25日、「英なき構想、揺らぐ結束」と題する記事を掲載しました。EUの27カ国がローマで首脳会議を開き、EUの将来像を描いたローマ宣言を採択しました。意欲のある一部の国だけが先行して統合を深める「マルチスピード構想」が柱となりましたが、裏返せば、統合に消極的な国は置いてきぼりにすることを意味しており、すべての加盟国が一緒に行動するという伝統の精神は明らかに変質したとしています。

 今回はローマ条約60周年ということで、実はローマ法王のところへ集まってきているのです。ローマ法王が各国首脳を前にスピーチをしました。私はちょっと驚きましたが、ヨーロッパの強さは結束だとして、イギリスに対して嫌味を言ったわけです。会議には27カ国しか来ておらず、メンバーだったにも関わらず、すでにイギリスは参加していなかったのです。

 EUの歴史を振り返ると、鉄鋼条約やユーラトムに始まり、次々と進んできて、ついにEU、ユーロとなり、通貨統合だけでなく、あらゆる基準を合致させていくことになりました。今ではギリシャの問題を契機として、国家予算も最終的にはEUの方で承認することにしないと、イカサマな予算を作った国があると手遅れになるという形になりました。

 銀行管理についても、イタリアの銀行などでいくつか危ないところがありますが、そうしたところの審査もEUでやろうということになってきています。つまり、国別に任せておいてはいけないと、通貨を統一のユーロにしただけではなく、国家予算や銀行管理もEUでやろうというところまで来ているわけですが、その矢先に、イギリスが離脱するということになったのです。

 「マルチスピード構想」ですが、これにはポーランドなどが反対しています。また、EUは全員一致が原則でやってきたわけですが、9日にはEU大統領再任を巡って、トゥスク大統領の出身母体であるポーランドが、彼の反対勢力が政権を握っているため、国として反対に回ったという、とても恥ずかしい状況が起きています。大統領はやや気の毒な状況ですが、国内の政敵に足元をすくわれるといった事態も生じています。ただ、ローマ法王のスピーチの内容はよかったと思います。

【英国】顕在化してきたBREXITのリスクとコスト

 英メイ首相は先月29日、EUに離脱を通知しました。イギリスの駐EU大使が、リスボン条約50条に基づいて、トゥスクEU大統領に書簡を手渡したもので、これにより離脱条件などを決める原則2年間の交渉が正式に始まることになります。

 実は、EUのメンバーには非常に悩ましい問題があります。離脱に伴い、法的リスクが発生する主な分野として、労働法、会社法、税金、環境、エネルギー、通信、航空宇宙、競争法など、非常に多くのものがあります。私は今週ずっとBBCを見ていたのですが、実は12,000もの法律が、イギリスにはないというのです。EUに入るときには、国内法とEU法が齟齬をきたしたときに、EU法が上回るという決まりがあります。

 つまり、同じものなら問題ないのですが、一致しなかったときは国内法は使わず、EU法を優先するというルールがあるのです。そのことにより、無意識にEU法をずっと使ってきたわけですが、今度イギリスが離脱するとなると、対応する法律でイギリスにはないものが1万2000もあるということなのです。議会で12,000もの法律をこれから作らないといけないのです。

 保守党は、必要なものを作ればいいと言っていますが、労働党は、保守党に任せて必要なものだけ作らせたら何をやるか分からないとして、全部のEU法をイギリス法にコピーアンドペーストしろなどと議会で発言しているのです。コピペという言葉が、天下のイギリスのビックベンで出てきているのです。それほど間に合わない状況で大騒ぎというわけなのです。

 離脱に伴う問題はこれに止まりません。例えば、牛を飼っていたとします。EUでは、こういう餌は良いとかダメとか、搾乳の仕方や出し方まで全て決まりがあります。それを守ることで、イギリスの酪農家はEUのブリュッセルから2500億円の補助金をもらっているのです。しかし離脱した場合には、例え基準を守っても、EU側はイギリスの酪農家の件は終了ということで、補助金はもらえません。イギリスの酪農家はその30億ポンドが来なくなれば、やっていけないことになります。

 また、イギリスの大学や研究所は非常にレベルの高いことをやっており、世界中からもヨーロッパからもいい研究者を呼んでいます。その分野でヨーロッパ大陸からイギリスに来て働いている人は多く、そこにも大変な額の補助金が出ているのです。その補助金がなくなったら、イギリス政府はそうした研究を続けることができなくなってしまうでしょう。

 そうしたことで、酪農家と研究者たちは、なぜ離脱するのか、自分たちは仕事ができなくなると頭を抱えているわけなのです。リスボン条約50条に基づいてBrexitをやったわけですが、今になって国民は青ざめているのです。メイ首相はイギリスにとって有利になるようにすると言っていますが、それは嘘になるでしょう。ヨーロッパ側はイギリスに有利になるようにはしないと言っているからです。

 もう一つ重要な問題があります。イギリスは、交渉は並行してやりたいと主張しています。脱退した後、どのような条件で輸出や輸入をするかということを、EU対イギリスのFTAでやりたいと、メイ首相は言っているのです。しかし一方、ヨーロッパ側は、それはとんでもない、まずは過去にイギリスがEUのメンバーとして払わなくてはいけなかった分担金、7兆3000億円を払うべきだと主張しているのです。イギリスはそんなものは払えないと言いますが、EUは、払わなければ離脱の議論はしないとしています。

 イギリスは離脱の届け出をしましたが、今後は届け出てから2年間というのがリスボン条約で、2年経ったらイギリスは外へ出ることになります。交渉で何の約束もないまま外へ出ると、日産のサンダーランド工場の車は、現在ヨーロッパ大陸にたくさん輸出していますが、離脱後は10%の関税がかかることになるのです。これはパニック以外の何ものでもありません。メイ首相はこうしたことをこれまで通りにと要求していいますが、まるで聞き入れられることではありません。

 このように、かなり基本的な、本当に離脱するとどうなるかのシミュレーションをイギリスはやっていないということなのです。リスボン条約は届け出てから2年で離脱手続きの完了をすることと規定していますが、グリーンランドは前身のECから離脱する際に、3年かかったと言います。離脱についてはイギリスは大チョンボをやったという方向に向かっているのです。

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 それでは、次回のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!