グローバル・マネー・ジャーナル

2023.9.8(金)

円安の今後と海外通貨について(岡村聡・岡村さとみ)





2022.12.14(水)
円安の今後と海外通貨について(岡村聡・岡村さとみ)
円安の今後と海外通貨について(岡村聡・岡村さとみ)

今の円安は貿易赤字とサービス赤字が背景に

今の円安がどこまで続くのかについては、大きなフローとして考えていく必要があります。貿易収支は赤字が定着し、久々に6月には少しだけ貿易黒字になったものの、7月以降はまた貿易赤字が続いています。少しずつですが原油やコモディティも上がっていますので、円安も関係して貿易赤字も増えていくでしょう。

しかし今年になって注目されているのは、サービス収支の赤字です。去年から貿易収支の赤字は定着していますが、それと同等以上にインパクトがあるのが、このサービス収支に関する貿易赤字です。デジタル赤字は、コンサルティング、著作権、ITサービスの三つを足したものを指しています。今年の年間数字はまだですが、今年前半の数字では既に3兆円の赤字ですので、それを単純に倍にすると6兆円となり、去年の5兆よりもはるかに大きな赤字となることが予想できます。去年は過去最大5兆円というデジタル赤字でしたので、このままでは7兆円ぐらいの赤字になると言われています。
生成AIバブルが始まり、日本企業がAIで何かをしようにも、基本的にはAmazon、Google、Microsoftのクラウドサービスを借りる必要があり、当然そういうサービスを利用することによって米系企業に支払う米ドルがさらに膨らんでいくという背景があります。さらに今、NVIDIAのチップを買って生成AIをどんどんやろうという会社を国が支援しており補助金を出しています。例えばソフトバンクは約200億円の補助金で生成に取り組んでいますが、結局、何をしているかというと、そのお金のほとんどをNVIDIAからのチップ購入、GPU購入に費やしているのです。

とにかく日本企業が何をするにしても、生成AIに関する何かを購入することになり、そしてそれは米ドル建てのサービスを購入することであるため、円安である今、円建てにすれば利用金額も上がります。クラウドにしても何にしても海外のものを使わなければならず、特にサービスにおいては必ず発生する支払いであるため、今後デジタル赤字が拡大することは否めません。Amazonなどのクラウド料金は踏み倒してしまうと利用停止とされますので、毎月必ず支払うべき費用なのです。

経常収支については今でもずっと黒字が続いています。この中身は、日本企業が海外に投資している子会社の価値が増大したことによる含み益や直接投資などが中心です。経常収支は黒字になっていても、その黒字はあくまで含み益に過ぎず、その含み益を売って円に戻すというフローは恐らくほとんどありません。要は見かけだけの黒字であり、実質発生しているお金の流れとしては、貿易赤字やデジタル赤字のような赤字が膨らみ、今年に入っての再度の円安につながっているとの見方が浮上します。

唯一明るい材料は、観光業がかなり戻ってきたことです。先日、大阪の難波を訪れましたが、とんかつ屋などの飲食店も、ほとんどが中国人や韓国人で占められていました。シンガポールに住んでいる私たちよりも、日本にいる皆さんのほうが実感されていると思います。しかしインバウンドは、過去最高の2019年の数字には、まだ戻っていません。そして2019年の旅行収支の黒字は3兆円程度で、対して今年1年のデジタル赤字の予想は倍以上です。フローとしては、貿易でもサービスでも赤字が実は拡大しているために、円安になっているということです。

ロシア・ルーブルは暴落しているが、トルコ・リラは底打ちの様相

以前、先進国通貨の中においても、日本円は落ちているとお話ししました。新興国通貨の中では日本円は真ん中ぐらいの位置にいます。人民元やフィリピン・ペソ、インドネシア・ルピアなどは、米ドルに対しては落ちていますが日本円に対しては踏ん張っており、これらの通貨に対しては円安が進んでいます。ただしロシア・ルーブルやトルコ・リアなどに比べると、桁違いに安定しています。
ロシア・ルーブルの暴落は、戦争が混迷し、それが人の流れにも大変な影響を与えていることが原因です。ロシアは数週間程度で戦争を終わらせる予定でしたが、あまりにも長引いたことで経済混乱が進み、最近では首都モスクワを含めたロシア本国が攻撃を受けるという事例も出ています。それにより通貨の価値も下がり、そしてトルコについても経済混乱状態が続いて下落が大きくなっているようです。しかしトルコについては。この2カ月ぐらいで安定し、底打ちとなったのではと言われています。

トルコでは1年で50%、60%のインフレが起きており、物によっては倍以上ととんでもない状況です。エルドアン大統領は大衆迎合的な金融政策を行っており、通貨が下がってインフレがひどいにもかかわらず、金利を引き下げるといった、金融の教科書の逆をいく政策で通貨暴落がさらに進み、インフレが悪化しました。しかし最近では、エルドアン大統領再選後、一気に7.5%の利上げをして政策金利を年25%としました。それにより、長期金利もつられて上がりました。トルコ・リラの下がりは止まらないにしても穏やかになるのではという動きが見てとれます

欧米社会や日本ではロシアの債券や金融商品は買えませんが、それらを買える新興国では、金利が結構上がってきており、メキシコやロシアといった、いわゆる脆弱な国においても少しずつ上がって長期金利が10%を超えており、油断はできません。
一方、中国はどうかというと、不動産系銘柄の株価暴落や債券が紙くずになったり大暴落したりしていますが、少なくとも政府系の債券については今のところ金利は下がっています。バブル崩壊で安全を求めた国内の資金は今、政府系組織に向かっているので、トルコやロシアのような大混乱は起こらず、金利だけを見れば今のところは安定しているということを、一つの事実としてご認識いただければと思います。

以上についてまとめると、株は米国中心に戻ってきており、引き続き生成AIや電力シフトといったものが非常に強くなっています。一方、日本を含めた新興国通貨はドルに対して引き続き下がっており、トルコなどはようやく歯止めをかけようとする動きが出ていますが、まだ予断を許さないということです。


—この記事は2023年8月30日に金融リアルタイムライブで放映されたの内容を一部抜粋し編集しています
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