グローバル・マネー・ジャーナル

2023.9.22(金)

2023年上半期の不動産マーケットについて(井出武)







2022.12.14(水)
円安の今後と海外通貨について(岡村聡・岡村さとみ)
2023年上半期の不動産マーケットについて(井出武)

日銀・植田総裁による金利金融政策変更を言及する発言

不動産マーケットの最新動向についてお話いたします。9月9日に日銀の植田総裁が金利政策の変更もあり得る、と発言をしました。金利が上がるかもしれないという事がいよいよ現実味を帯び、マーケットはどう変わるのかと、取材が殺到している状況です。今回は今年8月のデータまでを基にお話ししますが、植田総裁のコメントについては反映されていません。今後、反映される可能性があり得るという点も含めてご説明いたします。

もともと金利は上がるのではという、ある種の待望論的な雰囲気、つまり、マーケットの内側、外側ともに円安対策をそろそろやってくれないと困るといった雰囲気がありました。なぜなら、大手企業が中心に賃上げなどをやっている中で、それ以上の物価上昇などが起こってしまうと、せっかく賃上げしてもその効果が消滅・相殺されてしまうからです。ですので、以前よりもこの金利上昇という金融政策の変更は、割と切迫感が出ていると思います。

東京23区は比較的売りも買いも高い水準

東京23区、大阪、名古屋の動きを確認しましょう。東京23区における中古マンション市場の売りと買いの動きは実際にどうなっているのか、グラフを見てください。こちらのグラフは新規住戸数と消滅住戸数という二つのデータで構成されています。また、物件がマーケットから消えたことを「売れた」という表現しております。新規(青)と消滅(赤)の差し引きが、積み上がりとしての在庫になる、ある意味、重要なデータとなっています。

5月、6月は連続して赤い棒が青い棒よりも上にきており、在庫が減る動きになりました。しかし7月はまた在庫が積み上がる方向に進んでいます。東京23区に関しては、ここ数カ月の動きを見ると、割と高い水準にあることが分かります。東京23区以外の地域はそうではありませんが、東京23区は比較的売りも買いも高い水準、つまり中古市場では売ったり買ったりが割と動いています。東京23区の中でも今年の中心エリアでは、売りと買いが強く起こっています。

東京23区の在庫数は「だぶつき感」が強まるが一服感も

こちらのグラフは、東京23区における在庫の積み上がり状況を示しています。今年の2月まではすごいペースで在庫が増加しており、急増と言っても良いレベルでした。しかし今年の3月以降はこのペースががくんと落ち、その後また上がっているものの、上がり方は急ピッチではありません。先ほどお話ししましたように6月、7月は在庫が減る動きになって、8月また増えるという状況になっています。では、このデータをどう見るか、私の見方をお話しします。直近のグラフにある一番左のデータでは1万を切る水準の中、現在まだ1万2000を超える戸数が在庫として中古市場マーケットに出続けている状況は極めて高い水準であると言え、だぶつき感があります。しかし増える一方だったところから一服感が出たことで、ある程度の在庫の積み上がりが解消され、これ以上は積み上がらないという状況になってきました。これ自体は非常に大きな市場の中での改善だという指摘をしてもいいと思いますが、あくまでこれは8月までの動きです。冒頭でお話ししたとおり、植田総裁がコメントをする前までの状況です。

9月以降は様子見か? 実際の金利実数を注視

8月までの市場は、金利上昇は当面避けられるといった楽観視が割と強く出ていました。そろそろ動き出してもいいだろう、と在庫減少や売り買いが強含んだというのがここ数カ月の動きでした。しかし9月9日に植田総裁のコメントが出てしまった影響で、また様子見の動きになり、売りも買いも芳しくない動きに戻る可能性が十分にあると私は思います。高値の物件であることや金利上昇はあまり関係ないと思うかもしれませんが、投資をやっている多くの方はお金を借りてお金を動かしています。特に短期プライムなど政策金利に直結する変動型の金利は多くの方が市場で使っているため、これが動くとかなりの影響が出るといった話はデベロップメントしているところからも聞こえる声であり、何かしらの影響が出るだろうと見るべきです。

しかし9月9日の植田総裁のコメントでは、金利を上げると断言したわけではありません。政策として、そういう可能性を排除しないというコメントにとどまっており、必ず上げるとは言っていません。金融政策を変更して金利を上げ、マイナス金利政策をやめて実質金利のある世界に戻る、となり具体的な上昇幅が明らかになった時に、多くの人がこのままの戦略で構わないと判断するか、大きな変動幅なので見直そうとなるのか、どちらで捉えるかによってまったく異なります。ですので、このマーケットが変化する、あるいは価格が下がるという可能性が私はあるとは思います。しかしその場合は、どの程度の金利を動かしてくるのかという実数を見なければ明確には判断できませんし、様々な可能性をはらんでいると思います。例えば0.5%上げます、などと実際にアナウンスメントされた後に市場がどう動くのか、そこを注視する必要があると思います。


—この記事は2023年9月16日に金融リアルタイムライブで放映されたの内容を一部抜粋し編集しています
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