NYからの世界の経済情勢分析~金融引き締まりの影響(西岡純子)
2022.12.14(水) | ||||||||||||
NYからの世界の経済情勢分析~金融引き締まりの影響 | ||||||||||||
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学生ローン返済延期措置による影響は大きい |
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まず金融引き締めの影響が、どのようなところに表れたかをご説明します。まず家計部門については、ローン返済の延滞率がじわじわと上昇しています。四半世紀に1度の7-9月期データでは、自動車ローンとクレジットカードローンの延滞率が徐々に上がっており、パンデミック前の水準を上回りました。オートローンやクレジットカードローンでは金利水準が高く、それを提供する銀行、または自動車メーカーのファイナンス子会社は与信基準を引き締めています。ローンの延滞率が上がった理由は、まさに金融引き締めの影響にあると思います。ボリュームゾーンである住宅ローンについても、2021年をボトムに少しずつ上がっていますが、まだパンデミック前の水準には戻っていません。 この間、特徴的な動きを示しているのが学生ローンです。学生ローンは2020年のパンデミック後、大幅に下がって低空飛行となっています。パンデミック後、当時はトランプ政権でしたが、学生ローンの返済については元本、利息共に延期という措置を取りました。減免ではなく、取りあえずの返済先送りです。これは非常に人気を集めた政策であり、8回近く延長されました。しかし景気はかなり良くなってきていることから、2023年10月から学生ローン返済を再開しましたが、この影響がどう出てくるかに注視する必要があります。 パンデミック後のこの3年間、学生ローンの返済を先延ばしできるが故に、幅広い人においてはクレジットスコアが改善しました。ちなみにクレジットスコアはその人の信用度を表すもので、例えばローンを借りた人がちゃんと返済しているか、銀行残高、銀行口座を持っている期間など、いろいろな指標が入っており、それぞれ銀行口座を所有している人はクレジットスコアを必ず持っています。そしてクレジットスコアが改善したために、自動車ローンやクレジットカードローンを積極的に利用できたとも言えます。 しかし今年の10月以降は、恐らく逆回転が起こります。学生ローンの延滞が増えると、これまで改善してきたクレジットスコアが悪化に転じ、より資金を集める上でのアクセスが難しくなります。恐らく今月以降、こうした動きが見えてくるはずです。 実際に、消費者に対して行った資金繰りについてのアンケートでも、この状況が表れています。資金繰りは昨年と比べてどうかを尋ねた調査で、「厳しくなった」「いくらか厳しくなった」を合わせた回答は50%を上回っており、消費者はかなり引き締まりを感じていることが分かります。今後は、恐らく徐々にこの傾向が強まると思います。 |
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金利に対する経済の感応度は下がっている? |
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次に、企業部門についてご説明します。企業においても、お金を借りたり、社債を発行したり、コマーシャルペーパーを発行したりと、金利引き上げコストの支払額は増えています。民間企業のグロス利払い費のチャートによると、2022年第2クォーター以降は、利上げに足並みをそろえる形でグロスの利払いはどんどん増えています。しかし非常に興味深いのが、企業側から見た金利の支払いから受け取りを差し引いたネット利払い費の足元が急激に下がっていることです。グロス利払い費が増えているにもかかわらず、それ以上のペースで受け取りが増えているために、ネット利払い費が減っています。 企業の利息の受け手は何か、それは短期の資金運用です。特に大手企業を中心に、この3年間の景気拡大をきっかけにして大幅なキャッシュフローが生み出されました。その余剰資金を短期金融市場で運用するだけで、5%のリターンを得ることができるわけです。このような資金フローが動いているため、ネット利払い費は減ることになります。総じて言えば、これまでの高金利政策も、ネット利払い費負担が下がってしまうような局面においては、利上げ効果は薄まると思います。 もちろん銀行からの資金調達に頼らざるを得ない人たちにとっては、金利上昇の影響はストレートに影響し、住宅市場は低迷しました。ところがテック企業のようなトップティア企業が余剰資金を運用することで利払い費負担が下がり、それをマクロの全体感としてFRBも見ているとすれば、利上げが急ピッチに行われても経済は急激に後退しない、すなわち金利に対する経済の感応度は下がっているという表現が一番正しいと思います。 |
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アメリカ企業の利払い費負担が増えないカラクリ |
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先ほど、利息の受け取りがあるという話をしました。もう一つの説明の仕方として、パンデミック後にFRBは積極的に金融緩和を行いましたが、その結果、イールドカーブが非常にフラット化しました。その過程で、アメリカの企業はとてもうまく立ち回りました。どういうことかというと、既存の債務についても、いったん借り換えをして、一気に負債の年限を延ばしたのです。負債の年限を延ばすと当初の返済金額は相対的に下がるため、ネット利払い費の負担はさらに下がるというカラクリです。 既に発行されている債券をもとに、2023年から2030年までに満期を迎える量感を各年で表した企業債務のマチュリティ・ウォールのグラフによると、インベストメント・グレードの社債が満期を迎えるピークは2025年で、クレジットコストが相対的に高い社債のハイイールドやレバレッジド・ローンが満期を迎えるのは2028年です。レバレッジド・ローンは、例えば中小企業や零細企業に対する融資を束にしたシンジケートと考えてください。このように債務返済の壁が先に送られた結果、手前の利払い費負担が急激に下がっています。これが利上げしているにもかかわらず、アメリカ企業の利払い費負担が増えていないというカラクリです。 —この記事は2023年10月23日に金融リアルタイムライブで放映されたの内容を一部抜粋し編集しています |
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