グローバル・マネー・ジャーナル

2018.10.31(水)

訪日客の大幅な減少と消費増税(大前研一)

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訪日客の大幅な減少と消費増税(大前研一)

訪日外国人減少の本質的問題

 日経新聞は12日、「訪日消費、帰国後リピート」と題する記事を掲載しました。これは、2017年の訪日客によるお菓子の購入額が、前年比21.5%増加の1589億円で、消費の拡大に合わせて輸出額も増加傾向にあると紹介しています。食品のおいしさや日用品の品質の高さを実感した訪日客が、現地でリピーターとなる帰国後消費が牽引しているということです。
 これはその通りで、中国では11月11日の独身の日などに大量に売れるものを見ると、1位が日本のココカラファインのようなところで売れていたものであったり、ユニチャームのオムツのようなものであったりするのです。日本で爆買いをして帰っていたわけですが、それがなくなって、クロスボーダーeコマースで売れるようになったということなのです。日本で商品を知って、お土産で買ってきてと言うと、いやネットで買えるので重たいものを運んでくる必要は無いだろうということになり、そうした商品が独身の日などに爆売れするというわけです。
 日本政府観光局が発表した9月の訪日客数は、前年同月に比べ、5.3%減少の215万9600人と、5年8カ月ぶりに減少しました。台風21号による関西国際空港の閉鎖や、大規模な停電が発生した北海道地震が響いたものですが、足元では回復基調に戻っており、影響は一時的と見られています。
 例えば熊本地震の場合には影響はあまりありませんでした。関空の水没や、北海道地震の停電、および千歳空港の機能麻痺がうまく処理されずに、情報もほとんどSNSベースで広がってしまったということで、がくんと訪日客の数が落ちたのです。グラフで見ると大きく落ち込んだのがよく分かります。
 こうした意味で、関空の場合は論外だと思います。あのような非常時になり、タンカーがぶつかった等という運が悪いこともありましたが、いわゆる出発のほうの道が空いていたわけなので、それを使うことができたはずです。
 しかし社長もおらず、副社長はフランス人ですが国へ帰ってしまっているということで、誰もいない状況だったのです。せっかく民営化したのに機能不全だったのは空港だけでなく、会社そのものが機能不全だったという話なのです。そして情報の伝え方も下手で、閉じ込められた人たちは食べ物もなかったということなのです。とてもみっともないことで、日本側の完全な失敗です。多くの、特に関西圏における収入チャンスを失わせてしまった罪は大きいと思います。
 一方北海道の場合は、やはり千歳空港が問題です。空港は非常用発電施設を持ち、自分でやるべきなのです。それがあのような大混乱となり、いつ帰れるか分からない人たちがその場で全部ネットに配信してしまい、取り返しがつかないことになってしまったのです。今回の訪日客の大幅な減少は、この2つの空港の問題が非常に大きかったと思います。回復はすると思いますが、ダメージが大きすぎたと思います。

消費税率10%への道のり

 安倍総理は15日の臨時閣議で、消費税率を2019年10月1日に、予定どおり8%から10%に引き上げることを表明しました。その中で、今こそ全時代型の社会保障制度へと大きく転換し、同時に財政健全化も進めていくと述べ、財政を確保するため、消費増税に踏み切ると説明しました。
 しかし、そのようなことを言いながら、すでに増税を2回延長しているわけです。一般会計税収の推移を見ると、税収が増えているとは言いますが、それほど大きくは増えていません。税収を税目別で見るとグラフのようになりますが、所得税の伸びはわずかで、法人税もあまり伸びていない状況です。ここで消費税が2%増えると、さらに5兆円が増え、所得税の税収よりも多くなります。このように実際は消費税に頼らざるを得ないわけです。
 主要国の付加価値税、消費税をそう呼ぶ国が多いわけですが、ハンガリーはその付加価値税が27%で、食品については18%です。スウェーデンは25%、食品への課税は12%です。こういう国はオーストリア、ノルウエーなどを含め、ヨーロッパに多くあります。アイルランドは逆に付加価値税が23%ありますが、食品関係に対しては0%です。フランスなどその他のヨーロッパ諸国も20%程度の付加価値税率です。オーストラリアは10%ですが、日本のように3%、 5%、 8%、そして10%になかなか達しないなどということはなく、一気に10%になりましたが誰も何も言っていません。ただ食品に関しては0%です。
 こうして各国を見ると、このようなものなのだと思います。10%にすると言いながら軽減税率かどうだの、ポイントがどうだのと言っていますが、10%に上げる目的がとにかく今の借金大国をなんとかしようという、財政健全化であるならば、それを必死に説明して、10%でお願いしますと思い切ってやらなければいけないのです。
 単純計算をすると、日本がプライマリーバランスを取って、かつ、今の大きな借金を返していくということになると、やはり税率20%を越えなければだめなのです。しかし、10%でおそらくすべての政治家は力尽きてしまうと思います。そうなってくると、今度は削るものを削って行かなくてはなりません。つまり、ギリシャのようになってしまうわけで、そうなると結局、公務員を3分の1削るなどということになるのです。警察や教師等を減らさなくてはならないのです。そういう世界が次に来ることになるわけで、その前に増税できるものは10%まで持っていく、還元などをせず、それで終わりとしないといけないのです。コンビニの中で食べてしまった場合はどうなのかなど、やることがちまちましすぎていると思います。

米財政収支の悪化

 アメリカ財務省は、2018会計年度の財政収支の赤字額が、前年度比17%増加の7790億ドル、およそ87兆円になったと発表しました。
 オバマ前大統領の時もあまり良くありませんでしたが、改善はしていました。それがまた奈落の底に突っ込んでいくという状況です。ただ中国に対する関税が大きく10兆円ほど増えるので、若干は助かってくるでしょう。ただ87兆円の赤字に対しては焼け石に水という状況です。アメリカの経済も大変な状況です。
 日経新聞は18日、「米豪、対中情報防衛で共闘」と題する記事を掲載しました。これはパプアニューギニアやソロモン諸島のインフラ整備で、中国政府が無償援助を活発化させていると紹介しています。これに対しアメリカとオーストラリアは、対抗案を提示して受注を勝ち取るなど、中国政府や企業の排除を進めており、中国に、アメリカ、オーストラリアが対抗する構図が鮮明になっているとしています。
 これはファーウェイにルーターや次の世代の基地局を作らせるのはやめようとアメリカと相談してやろうという話です。どちらかと言うと北欧系を使っていくという事しかオプションはないと思います。
 今週のトランプとして、もっと気になったのは、万国郵便連合から離脱するということです。理由は中国が途上国料金の安い値段を設定しているため、アメリカ国内で届ける値段の方が高く、アメリカの持出しになっていると言うのです。
 一方、高いほうのアメリカから郵便を出した場合にもアメリカが高い分を払い、これは不公平だということで、万国郵便連合から離脱すると言っているのです。なんでもこういう連合から出るのが好きな人ですが、こうすることでアメリカから世界中のどこにも郵便を送れなくなってしまうのです。それをどうするのか考えると困ってしまうので、この離脱はやめることになるでしょう。やり方としては、中国はこれだけ経済成長し、WTOのメンバーにもなっているわけなので途上国の扱いは止め、他の国と同じだけ払うことにすれば、中国は納得したはずなのです。それを離脱などと言うので、アメリカの中では世界中に手紙等が出せなくなるのかという問題になっているわけです。トランプ大統領はこうしたお騒がせな人なのです。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座 学長
大前 研一
10月28日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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【次回の記事】新たな時代の日中関係(大前研一)
【前回の記事】
日米欧で異なる金融緩和からの出口戦略(大前研一)

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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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