講師コラム

2017.11.20(月) 講師コラム

【第5回】日本の投資家の現状と今後

日本の投資家の現状と今後

最適なポートフォリオ組成のシミュレーション

 ポートフォリオ構築にとってまず重要なことは、どれくらいのリターンを目標にしていくかという基本設計です。この基本設計をしていく上で重要なのは、いくら欲しいから何年間で何%で回さなきゃという考え方は言語道断、全く間違った考え方で、ポイントとしては購買力を減らさないということ、どれくらいインフレ率が高まっていくかということだと思います。インフレ率が10%も上がっていくときに2%、3%のリターンが上がってもどんどん減価しちゃうわけです。ですから重要なことはインフレ率がどれくらいということを想定しながら自分の資産構成を考えていくことだと思いますね。

 とはいえ、今の時点で急激に高いインフレ率を想定して、高い目標が上がるようなポートフォリオを作るということは、ちょっとまだ早いのかなと思います。今ようやく世界はインフレ率が落ち着くかもしれないというところですから、少なくとも5%、6%のインフレ率を想定するというよりは、2%、3%くらいのインフレ率が今後出てくるかもしれないということを前提に、それを上回れるくらいのポートフォリオを作っていく。具体的には4%とか5%くらいの期待リターンを目標に設定するくらいが今の第一歩としては妥当なのではないかと考えます。

 しかし日本が2%インフレターゲットに収まることなく、日銀が引き締めに転じてもどんどん上がっていってしまうことになると、ポートフォリオを少しずつその状況に合わせて見直していくということは必要だと思うのですが、いきなり10%、5年後からインフレ率が上がるぞとか、今と比べて100倍くらい物価が高くなるぞ、などと考えることは若干荒唐無稽かなと思います。実際ヘッジファンド等も目標リターンを設定するときに、いわゆるリスクフリーレート、個々の中央銀行の政策金利というものを重視します。各国の中央銀行の政策金利はほとんどゼロなわけで、ゼロの時に10%、20%と置いておくというのは、やはり無理があるわけでして、ヘッジファンドの目標リターンは年々下がってきているわけです。

 私たちが資産運用していくときの運用目標みたいなものも、第一歩として4~5%くらいを目指して資産運用が出来ていくようなポートフォリオを組んでいくことが重要だと思います。

 とはいえ、いきなり株式、日本の株式を全部入れてしまうということは少しやり過ぎです。ベテランで何度も経験があって、全部わかっているという方だったらともかくとして、安定的にポートフォリオを運用していくと考えるのであれば、株式は100%入れなくても、たとえば20%だったら20%、ポートフォリオに入れていくとするべきです。そしてその過程で、日本よりも海外の成長率がより高めに推移すると思うのであれば、その通貨を入れる。それもいきなりエマージング諸国の通貨だけではなくて、やはりアメリカドルのように、シェールガスの革命があって、「いよいよやっぱり成長率が高いな」「今まで不当にドル安が続いていたものが、少しその反動があるだろうな」と思えば、ドルも少し入れていくとかですね、そういった運用が必要かと思いますね。

 さらに踏み込んで、例えばドルとその他の海外通貨を20%入れるとしましょう。そして海外のカネ余り現象があるのであれば不動産市場というのはある程度続くだろうと、いわゆるグローバルREITのような投資信託を5%入れて、日本REITを5%入れるかなと。経済情勢でデフレも続いて金利も急激に上がることが考えづらいということであれば、例えば日本の債券を10%入れて、それから先進国の債券を10%くらい入れるという風になってくると、徐々にポートフォリオの形というのは出てくるわけですね。

 日本株を20%、海外の先進国の株式を20%、そしてエマージングとかREITを20%とすると、60%くらいの資産がリスク資産になって、残りの40%を日本の債券と、少し海外の債券を入れるというポートフォリオを仮に作るとするならば、おそらく海外のものが5割くらいと日本のものが5割くらいになっているというポートフォリオで恐らく期待リターンもざっくり言って5%前後くらいのものが出来上がるかなと。こんなようなモデルケースを一つ念頭に置いて行うということも重要なことです。

 長期運用を考えているのでもっとリスクを取れる、ということになれば、債券運用の比率を落としてしまうというやり方がありますし、国内債券にあったものを海外の債券、エマージングやREITも増やす、というのも考え方としてはありだと思います。

 そうではなくて、少しそれは怖いし、そんなインフレはすぐに来ないし、海外のデフレ化だってあり得るでしょ、と。期待リターンももう少し低くてもいい、ということであれば、もう少し債券のウェイトを上げてしまうと。日本の債券のウェイトを上げると期待リターンは下がりますが、一気にリスクが下がりますので、日本の債券のウェイトを大きく40%くらい取ってしまう、ということがあって、海外の運用比率も3割くらいにして、日本株も15%くらいにして、細かく色々な商品を持つというのも私は十分ありだと思います。そうするとおそらく期待リターンは3%半ばくらいになってくる。そして状況を見ながら債券を少しずつ少しずつどこかのタイミングで株式に変えていくとか、それもありだと思います。ベンチマークという言い方をするのですけれども、ベンチマークのポートフォリオを置いたら、やり方として2通りくらい十分考えられるかなと思いますね。

ヘッジファンド手数料は高いのか

 ヘッジファンドの手数料も下がってきて、3%から2%に向かい、2%も少し切ったものも出始めていると聞いていますので、相対的には下がっていますが、それでもまだ高いですよね。これまでヘッジファンドというもののリターンが10%、20%が当たり前という世界の中での2%でしたので、預ける方の富裕層、あるいは金融機関、大きな年金基金もそれだけのリターンがあった中で、手数料を除いても十分リターンが上がったので満足していたという状況から、それが少なくなって来れば当然のことながらヘッジファンドに預けようというインセンティブは減ってきますよね。実際に資金流出を起こしているヘッジファンドも多くなってきていて、ヘッジファンドも一回畳んでしまう、辞めてしまうというところも増えているのも事実ですので、その辺の背景が起因しているものだとも思います。

 同じように投資信託、株式投資の手数料は下がりましたが、投資信託にはまだ手数料が高いものもありますので、十分精査してみていく必要があると思います。販売手数料を3%取られて、毎年の運用管理手数料みたいなもので1.5%~2%も取られてしまうとすると、仮に2~3%しか値上がりがないと販売手数料と管理手数料だけで消えてしまうということも無いわけではありませんので、やはり資産運用は長期運用ですから、如何に手数料が安いもので、コンスタントに運用資産を膨らませていけるかということが重要なポイントになってきますよね。

物価連動国債は魅力的か

 欧米のIMF等でも、アメリカのFRBでもレポートやディスカッションペーパーが出たりするのですが、物価連動国債のパフォーマンスが昨年はちょっと冴えませんでした。それはなぜかというと、物価が安定し、思ったほどパフォーマンス上がっていない状況だということです。

 この物価連動国債のパフォーマンスがいい時というのはインフレとかインフレ期待が高まっているときですから、ヘッジ商品なわけですよね。ヘッジ商品で20年、30年と長期運用を考えた場合には非常にいい商品だと思うのですが、足元のところでいうとインフレ期待が収まっている中では物価連動債のパフォーマンスは必ずしも良くないということなので、タイミングも重要です。年金運用はインフレヘッジだから、これを全部買ってしまおうと思ってしまうと、例えば5年くらい経って、インフレが中々起こらないで、非常に低い状態が続いているとなるとこのパフォーマンスは良くない、すなわちリターンが出てこないわけですね。

 一方で5年くらい経った時点で株は意外とパフォーマンスが良かった、REITも良かったという中で物価連動国債があまリ良くないと、5年後の資産形成があまり良いものにはなっていないわけです。最終目標が10年後だとしても5年後の時点である程度のリターンが欲しいということもありますので、入れることはいいと思いますが、比率に関してはそれほどメジャーにするというよりもある程度抑えながらいくことが必要だと思います。ただ物価連動国債は年金運用としては非常に重要なものですから、ちゃんと準備をしておくという意味で、資産配分として5%などを物価連動債の投資信託とかを買っておくという考え方は非常に重要だと思いますね。

若年世代からの金融教育 ~日本とアメリカとの違い~

幼少期からの金融教育が生み出した、日米の大きな「差」

 最初に、資産運用の考え方の話からさせてください。一般論として言うならば、日本の場合は「働いたものを切り詰めて預貯金しましょう」ということを言われますが、「一生懸命節約して投資しなさい」とは言いませんよね。一方アメリカの場合は、まず10ドルお金を稼ぎなさいと。アルバイトなり何なりで、まず10ドル稼ぎなさいと。そして稼いだ10ドルで好きな株を買いなさいと。こんなスタイルが多いらしいんですね。まずこの出発点が大きく異なります。

 ファッションに興味がある女の子に対してだったら、これから売れるであろうブランドの、または百貨店であるとかそういう分野の株を買いなさいと。男の子に対してだったら、これから売れそうなモノを作る会社、どんなサービス業がこれからニーズが出るかとか、長い目でどんなものが出るかを考えなさいと。あるいは、安定して20年後も売れているモノを作っているメーカーや流行を継続して追求出来ている会社など。長い期間でみて、どんな業界の株が、外部要因などを受けてどのように変動していくかを考えてやりなさいと。そういうところから始まるらしいんですね。

 これは何かというと、自分が働いたものを長期間何かに投資することによって長期的なリターンがどう得られるかを考える、ということが金銭教育のスタートと捉えているようです。裏返すと現金はインフレに勝てないということを言っているのかもしれませんが、ここがポイントだと思います。いつまで働くかという点について、特にアメリカ人の場合には40代で早くリタイヤしたいと考える人が多いようです。日本ではむしろ逆で、65~70歳になっても働くと答える人もいるくらいです。

 人間は特に20代~50代という期間、労働によって金銭、収入を得ます。しかし老後、もちろんそれ以前であっても、労働ができなくなったら、年金を除きお金を得ることはできません。では労働資本が当てにできなくなったときにどうするかというと、金融資本から得るのです。つまり、労働資本から金融資本にシフトし、金融資本から利益を得て収入を得るということしかないわけですよね。もちろんチャリティでもらうというのもあるかもしれませんが、普通はないわけです。

 特にアメリカ、ヨーロッパでもそういう教育をしているところがあると聞きますが、ようは自分で稼げるうちはいいけれども、自分が動けなくなったときに稼いでくれるものは金融資本、投資によって出てくるリターン、配当、印税、収入、こういうもので食べていかなければいけないということですよね。「労働資本から金融資本への転換」というのを必然的に教えてもらっているということになります。

 これは希望職業にも表れています。日本人の子供たちに、「将来何になりたいですか」と聞くと、プロ野球選手とかテレビのアナウンサーとか答えるそうです。そして次に、「金持ちになるためにはどうしたいですか」と聞いても大体答えは同じ、すべてが体を動かしている資本という点が特徴的です。

 ところがアメリカで「金持ちになるにはどうしたらいいですか?」と聞くと、株買って何かやるとか、不動産を買って不動産王になるとか。スーパービジネスマンとかプロ野球選手といったプロフェッショナルな技能を持つ職業の人というよりも、お金を貯めて投資して、それで何かをやるというワンクッションが入っている点が大きな違いですね。私はこの点が非常に重要な概念だと思っています。サラリーマンの若い方にとって、一生懸命節約して、貯金じゃなくて投資をしていくということ。それがたとえ少額でも投資をしていって、20年後30年後、投資をしたもので食べていくということに概念の切り替えをすることが非常に重要だと思います。

「生存するリスク」と向き合い、意識の転換を。

 今世の中はものすごいスピードで、少子高齢化が進んでいます。ここでは特に「高齢」ということがすごく重要で、長く生きていけるということは、それだけ生活していくお金がかかるわけです。若い頃と比較すると身体も動けなくなってしまうので、収入がない期間が長くなると、収入がなくなるということへの不安が募ることになります。その期間一体どうするかということに焦点がどんどん当たってくるとすると、働けないわけですから、国にすがるというよりも、自分が貯めてきたものを投資して、その利益を作っていくということに繋がっていきます。

 つい最近までは預金の利回りが高かったため、投資をしなくても預貯金していれば利子だけでいい財産になったので良かったという成功体験をよく聞きましたが、今は金利がほぼゼロなわけです。これからインフレになって例え金利が上がるとしても後追いになるわけで、このギャップを埋めるために投資をすべきです。そう考えると過去のサイクルとか、過去の成功体験、経験値、データを元に我々の生活設計がなされているものが多いと感じます。

 生命保険などはその一例です。平均寿命でいうと、昭和30年代前半の時代には大体64、65歳と思われていたものが、今や85歳になっていて、20年も延びているわけです。もちろん「65歳までに死ぬ」リスクについて保険をかけることは重要なのですが、むしろそこからどうするか、そのことを考えていますかという話なのです。こういったことを考えた場合に働いたお金の中で、倹約、節約をして、その分を少しずつ投資に回して、来たるべき老人になったときにその投資が少しずつ花を開いていくという、このスタイルを身につけることがすごく重要なのではないかなと思います。

 働いている時は50歳代半ば、もしくは60歳までの間、住宅ローンや教育資金、生命保険、車などをどうしようかなという感じで向き合っていくことにすごく一生懸命で、65歳になった時に退職金を一気に、平均で2000万円から3000円万くらいもらうということになるわけです。そして手にしたお金を、いきなり株式とか為替に投資を始めたら、それはショッキングなことが起こりますよね。

 もしすべての資金で2012年に株式インデックスを買っていたら、約1年で倍に跳ね上がりましたから、仮にこういった良いタイミングの波に乗れれば、2500万円だったものが5000万円になっていたという、ものすごい強運の方も中にはいらっしゃるかもしれません。かたやそうではないタイミングであれば、いきなり20%くらい減ってしまい、2500万だったものが、今換金したら2000万になってしまったと。これはショックですよね。このように、50、60歳になって老後の大切なお金を持った人が、いきなりリスクの高い商品に入っていってしまうというのも日本のマーケットにありがちなもので、それを避ける必要があります。

 若い人にとって言えば、年金、退職金なんて分からない、そもそも終身雇用も分からないよというのであればあるほど、私は貯金ではなくて投資をしておく必要性があると思うのです。ここで言いたいのは、貯金を否定しているわけではなくて、貯金は欲を言えばきりがない、1年分なのか1か月分なのか生活資金として重要なものです。しかし、それと同時に、自分が生きていく上で、動けなくなったとき、老人になったときに助けになる金融資産を予め作っておくことが重要なのではないかと思いますので、そこの切り替えを重要視すべきだと思いますね。

資産形成、資産運用を始めるにあたって

学んでいく上でのスタートライン

 一番重要なのは歴史を勉強することですよね。特に近現代史。今、世の中や経済で起こっていることは何なのかを理解することです。直近で起こっていること、例えば、少し前(二十数年前)まで金利が6%だとか8%あったところから、今ほぼゼロに近い状態になってしまったことなど、まずこの過程をつぶさに振り返って、簡単にまとめてみることが重要です。

 日本の経済構造の仕組みとか税制とかそんなに難しいものではなくて、言ってみれば中学校や高校の時に勉強した社会科の歴史みたいなものを振り返ってみて、それを応用系にしたものから学んでいくことが重要で、第一歩というのはそこなんじゃないでしょうか。いきなり資産運用の勉強をするのも難しいので、まず歴史を振り返ってみて、そこから基本的な資産運用の考え方を学ぶのが重要じゃないかと思いますね。

考えなければ変わらない。思考停止から脱却せよ。

 今の世の中を見てみますと、例えばサラリーマンが「日々仕事が大変だ」と愚痴を言う。テレビなどの情報に流されて行動する。電車に乗ると、皆スマホを何かしらいじっている。皆がこういった行動をしていくことが、結果、経済不況に陥る原因ともなり得るのです。普段のコミュニケーションが皆スマホになる。生活費を安くしようとして、何かを安く買えたといって喜んでいた方が、ようは楽ですよね。その生活から一転して、一から何か新しいことを始めることはそう容易ではない、むしろ大変なことです。でもそれに立ち向かっていかなければいけない。そうしないと、いつまでたっても状況は変わらないまま。むしろ、ますます差が出てしまうわけです。

 仮に資産運用を行い4%の利回りが出ているとしましょう。30代半ばから始めるとしても、気づいた頃にはもうひと財産出来てしまうわけです。何もしないで銀行預金を辛抱強く少しずつやるのとは全然違います。そして所有を見直すこと。これも一つのきっかけです。例えば車に乗るのを諦める、そしてその分を毎月4万円ほど投資に回して、4%、5%で運用する。10年くらいで大きく変わりますよ。最初から比べて1000万くらいの資産になった時は結構驚きますよね。

 まずはこれまでの考え方や常識を疑い、思考停止から脱却して、一歩を踏み出すこと。このことが非常に重要になってきます。