【第2回】アベノミクスが日本の実体経済に与えるインパクトとは?
アベノミクスが日本の実体経済に与えるインパクトとは?
大卒の初任給、30年間で約2倍に上昇!物価上昇から考える「資産運用」の重要性
昔と今の比較の話なのですが、昭和33年頃の大卒の都市銀行の初任給は1万円。そして私が就職した年の昭和55年頃が、10万円くらいでした。そして現代は平均して約20万円くらいです。初任給与額の推移=(イコール)物価ではないですけれども、大学を出た新入社員が生活できる金額が、昭和33年に1万円だったものが、約22年後、10倍になり、その後さらに2倍になっているということです。物価が上がっていくということは基本的なメカニズムですし、物価はデフレ期を通り過ごした時にその反動もインフレ期に来るわけですので、長い目で見ると私たちが生活する物価水準というのは上がっていくと考えるべきだと思うのですが、これだけ値段が変わっていることを比較してみると考えさせられますね。
「資産運用」というのはまさに、20年後の生活をするために資産を運用することです。もっと極端なことを言うと、150年後に自分より3代後の子供、後世の人たちが生活するための資金なわけです。そういうことを踏まえて、果たして今どういったことを基準に資産運用を考えるかといったら、やはり来たるべきインフレに対応できるような資産に投資をし、20年後、30年後の生活に耐えられるようにするということではないでしょうか。仮にそこまで話を広げなくても、老後のための蓄えをしようという場合に、今一生懸命お金を貯めて、100万円貯めたとします。これを大切に自分の金庫に入れて50年後に金庫を開けて、100万円の価値がどれくらいになっているかというとどうでしょうか。
数百年の歴史をとっても、50年単位で考えると必ずインフレ期を通らざるを得なくなっている状況の中で、100万円で50年前にはこんなものも買えて生活できたのに、今はどうなのかということなのです。生活に置き換えて考えることがイメージしやすいと思うのですが、こういう所に暮らせて、こういうものが食べられて、こういう生活が当時出来たのに、50年後の今は果たしてどうなのかということなのです。
実際に昭和33年の時を例に考えてみますと、稼いだ初任給を全部貯めたとして1万円ですね。そして今、その金庫を開けて1万円だったら何ができるかと。 50年前はその1万円で1ヶ月生活できたものが、今はどんなに節約しても1ヶ月は厳しいですよね。ですからやはり、お金を何かに投資をして、金銭の価値を高めておかないと、この先50年後の生活の足しにはならないのです。やはり銀行預金0.1%に何年も大切にして置いておくよりも、何かしらのリターンを生むものやリスクをコントロールしながらポートフォリオを組んで、そして老後に備えるということが極めて重要でわかりやすい概念だと思いますね。
「資産価格、金融市場を通したインパクト」と、「実体経済に対するインパクト」
アベノミクスを簡単なキーワードで表すとすると、一つは「資産価格、金融市場を通したインパクト」と、もう一つは「実体経済に対するインパクト」です。一つ目の金融市場、資産市場を通した価格に対するインパクトをさらに掘り下げると、まずは日本の株式市場が急騰していること。2013年12月には1万6000円台になりました。数年前と比較して株価が2倍になっているわけです。そして、為替レートが30%くらい円安になっているわけです。80円くらいだったものが105円をつけました。この二つの事象が大きな特徴ですよね。
実際にこのことが与えている効果でいうと、例えば何らかの理由で株を持っていた、持たざるを得なかった人が含み損を抱えてリスクを取れない状況にいて償却しなければいけなかった方々が、ここ近年、株価が上昇し2倍になることによって、場合によっては「益」に変わってきたという話です。典型的に考えて懐が豊かになっていくわけですね。これは経済学でいうところの「資産効果」というものですけれども、ようは持っていたものがどんどん利益が出始めて、売却すれば本当に現金が手に入りますし、売却しなくても心の余裕が出るということです。他に持っていた現金を使うとか、株を売らなくても同じ効果が出てくるわけですよね?実際にそういう方々が多くなってきたことを裏付けているのが、例えばデパートの高級品の売上が去年の春先から一気に膨らんでいるとか、最近ではラグジュアリー商品と言われる物がどんどん売れるようになってきているとか聞きます。そしてそれが土地売買にも影響を与えてきているということもあって、具体的に株価の効果が出始めていると。
二つ目の「実体経済に対するインパクト」については、例えば企業に関して言うと、これまで株も下がっているし、自社の持っている株の含み損も結構大きい、新規事業を辞めようと思っていた方々が、一気に含み損から益に変わってきたり、見通しも出てきたということで、新規事業を立ち上げようという気になったり、生産計画もモノも売れそうだから強気に行こうか、ということになります。こういった事象も、実体経済の方に好影響を与えてきているわけです。
また、円安についての激熱なるプラスのインパクトというものもありまして、一番良く話に挙がるのはトヨタの決算の話です。1円円安になるだけで何十億、何百億という単位で決算が上振れていく、つまり上方修正していくということです。これまで円高で非常に苦しんでいた時代に、逆にその期間でもなんとか利益が出るよう、損が少なくなるようにということで、為替予約面での技術もさることながら、財務面での生産過程の見直しや、為替によってあまり影響の出ないようにしようという努力もあって、いわゆる円高耐性、円高に耐えることができるブレークイーブンポイント(損益分岐点)をどんどん下げてきていたわけです。もっと具体的に言うとこれまで100円でしか利益がでていなかったところを、90円でも80円でも利益を出そうという努力をしてきた中で、今円安傾向になってきているわけですから、これまでの期間と比較して利益が出やすい体質になってきているわけです。そういう意味では今回の円安が輸出メーカーに与えている影響というのはものすごく大きいのです。
これらの影響が具体的に従業員のボーナスや、今年4月からの基本給与の増加を期待できるようになってきているというものです。これは賃金が上昇する話ですから、家計にとってはプラスに直撃するいい影響で、この円安によって実体経済に対してプラスの影響が出ているということです。収益も良くて、輸出企業は強気にもなれる。そして給与やボーナスが上がって、必然的に家計も良くなり消費も増えてくると、そういうサイクルになってくるということです。
リーマンショックの後、アメリカ、ヨーロッパ、イギリス、すべての先進国が大規模な金融緩和政策を取ることにより、QEという代表的な言葉がありますけれども、ものすごい量の通貨を刷ることによって、各国の為替相場をどちらかというと自国通貨安に導いてきました。欧米は急激に施策を講じたために、例えばそれがドル安、ユーロ安、ポンド安になっていき、当然為替は相対的な価格ですから、当時の円はドルで見てもユーロで見ても円高になっていたわけです。日本も同じ時期に金融緩和を行っていたのですが、逐次緩和していたような状況で欧米の急激さには及びませんでした。ところが昨年4月からの黒田日銀総裁によるこれまでと全く桁違いの金融緩和をすることによって、今まで円高だったものがようやく少し戻ってきたというような過程だと思います。いずれにしましても、ものすごいプラスの影響を与えているということが、アベノミクスのわかりやすい検証だと思いますね。
アベノミクス好調で日米欧は経済回復の方向に向かうのか?
グローバルなデフレーションがもたらす各国の需給ギャップ
IMF、G20、中央銀行総裁会議などで今まさに議論されている大きなテーマの一つは、サブプライムローン問題後のリーマンショックが起こった2008年から、世界経済はどうやって立ち直れるかというものです。アメリカとヨーロッパは課題に立ち向かうため、非常なる金融緩和政策というアクションを取りました。日本もずっと緩和政策を講じてきましたが、欧米ほどダイナミックなものではありませんでした。そして今回、黒田バズーカと呼ばれる欧米並みの大胆な金融緩和を行いました。先進国のこういった政策によってリーマンショックから立ち直ることができましたので、ある意味では成功したのだと思いますね。
そういった背景で先進国を中心として見てみますと、アメリカのGDP伸び率は2%台から3%台に復活しようとしていますし、日本も2013年はかなりいい数字、2%台半ばくらいにはいくのではないかと言われています。ヨーロッパにおいても、ドイツ経済が全体的に苦境に立たされていたところを、2014年以降、明確な2%成長に向けて伸びていくのではないかと言われています。また、イタリア・スペインにおいても現状のマイナス幅が小さくなってきました。かなり明確に経済成長を見通せるようになってきましたので、大規模な金融緩和政策の効果もあり、経済は回復の方向に向かっていくものと思います。
物価の水準を消費者物価の観点でみても、日本はこれから消費税率が上がりますから、この部分はプラスに寄与する訳ですし、この要因を除いても、少なくともここ数年続いていたマイナス状況から、少しずつプラスになってきています。超デフレからインフレへの転換がなされつつある可能性がかなり高いと思われます。ただ、重要な問題として、いわゆるグローバルの安価な労働力を使った安価な製品が世界のマーケットでどんどん供給されていくことで、グローバル経済全体も賃金が安い、製造コストが安いというような状況に陥っていることです。また、インターネット化によりかなりの中間コストが大幅削減できるようになっていることから、グローバルなデフレーションという要素も出てきているという話もあります。
アメリカにおいても、失業率を下げたいけれどもなかなか思ったように下がってこないというような点も踏まえて、どうも実物経済での需給ギャップというようなものが引き続きあるのではないかと思います。供給の方が多く、需要がショートしている状況が続いたとして、価格は下がっていく可能性もあります。つまり、日本がここ15、16年の間経験してきた、いわゆる「デフレ」が今後起こる可能性があるのではないかという懸念が先進国を中心に広まっているようです。このことは、ここ1、2年くらいヨーロッパにおいて 「ジャパナイゼーション=日本化」 という言葉で何度も議論されているのですが、アメリカでも、IMF、世界銀行などで議論されているテーマです。供給がたくさんされているにも関わらず、それらに見合った需要が出てこない需要不足という状態の中で、今後デフレファクターが続くのではないかというリスク、心配というものはまだまだ尽きないようです。
一方で、日本においては、ようやく先進国の中で遅まきながらデフレからインフレに変わり、今後どんどんインフレになるかというと、ここはもう一つ議論の余地があります。3%、4%という急激なインフレの可能性よりもむしろ、なかなか上がってこない、つまりデフレの要素は残りつつ、1%台ぐらいで数年は続くのではないかということも考えられているようです。ここで厄介なのは、では世の中みな不況だらけになってしまうのかというとそうではないということなのです。
お金がたくさんあるので何かに投資する必要があるという方が、様々な資産市場、不動産や株、場合によっては金、そういういろんなものに波及しながら投資をすることで、極端な言い方をするとバブル的に資産市場の動きが高く推移するという傾向が続き、それがキープされることによってデフレに見える経済が何とか下支えられます。そしていつデフレを脱却して安定的な低インフレ期に戻っていけるのかというような時期になっていくという見方も多くあるようです。いわゆる「デフレプレッシャーがあるからすべてダメ」ということではなくて、一方でお金が大きくだぶついている側面もあるということです。富裕層が増えていて、お金の蓄積が進んでいますので、これが色々な市場をどんどん動かしていく可能性があるものですから、なかなか一筋縄ではいかないと思われます。
少子高齢化が需給ギャップに今後及ぼすインパクトは?
需要が足りないということは、つまり供給ができてしまうということになります。例えばパソコンの場合、1年も我慢すれば同じ機能のものでも、かなり値段が下がるわけですよね。この現象と同様のことがいろいろなモノで起こっているということであるならば、常に供給の余力が上回り、価格の下押しリスクというものは継続的に残るということだと思いますね。
これに変わるものがあるとすれば、例えば人口が爆発的に増えるとか、中国がとりあえず一人っ子政策を見直して、これがまた莫大な人口増の要因になっていき需要がどんどんあって足りない、ということになれば変わるのかもしれません。しかし、少なくとも先進国、中国等も含めかなり多くの国において、むしろ需給ギャップがどんどん減っていくというよりも、残っていってしまうリスクはあるのかなと思いますね。
■このコラムの続きはこちら: https://asset.ohmae.ac.jp/news/column/03
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