【第4回】富裕層ビジネスのポートフォリオ運用の違いを考える
富裕層ビジネスのポートフォリオ運用の違いを考える
「ウェルスビジネス」ニーズの急騰
昔ながらの富裕層というのは、ファミリーで何代にもわたって金持ちの状態が続いている、イメージ的に言うとお城を持っているような人々で、特にヨーロッパの場合、今でも名門家の方が多くいますが、過去10代、1世代を50年とすると500年にもわたって続いているような人を言うと思います。
それに対して現代における富裕層というのは、どちらかというと事業で成功してビリオネア―になってしまった、というような方を指すと思います。そしてそういった方々の数は今ものすごく増えています。もう少し小さな1億円くらいの単位となる「ミリオネア―」と言われる方の数もすごい勢いで増えていまして、個人の資産形成という話になるとこのあたりの規模になってきます。
ビリオネア―、ミリオネア―規模、いずれもそれぞれのニーズがかなりあって、これまで限定的であった50億円以上とか100億円あるいは1000億円以上の財産を持っている「ウルトラ・ハイ・ネット・ワース」と言われる超富裕層の人々のニーズも高まっているし、全体一括りにして「ウェルスビジネス」ニーズが急激に高まっているということが容易に想像出来ると思います。
根幹は「継承、承継していくもの」
「ウルトラ・ハイ・ネット・ワース」の人々にとっては、資産運用して自分の世代で期待リターンを最大化するということももちろん大切なのですが、ようはできるだけ価値を失わないまま自分の子孫に資産を受け継いでいくと、継承していく、承継していくということが重要になってきます。
一つはどうやって節税をしていくかという税金の話もあるのですが、もっと根本的を常に考えています。つまり、金融資産の歴史を100年単位で見て、インフレというものがいわゆる悪魔みたいなもの、一番怖い、そして一番避けなければいけないものであるということを常に考えているということです。インフレが起こってしまうと、資産の価値が目減りしてしまう。一言でいうと、インフレに対して資産の価値を失わないようなポートフォリオをもって、次世代に引き継いでいけるか、この点が特に重要なわけですね。
私たち日本人はとにかく一生懸命働きますし、日々の生活を送ることについては、おそらく世界で数少ない勤勉な国民性を持っていると思うのですが、果たして一生懸命働いて貯めたりしたものを、何世代にもわたって受け継いでいくということについてどれだけの知識と歴史があるかというと、残念ながらヨーロッパ諸国と比較すると相当な違いがあるわけです。資産ビジネス、富裕層ビジネスのポートフォリオ運用について日本と欧米を比較しますと、まずその根幹が違います。何千億持っている方も、1億円持っている方も、5000万円の方も、実は同じことなのです。同じ視点で考える必要があると思いますね。
ただもう一つ違う点としてあえて言うのであれば、いわゆる1000億円とか100億円とか、我々では信じられない金額の場合は、伴うリスクも信じられない金額なわけで、同じ1%でも、100億の1%は1億円、1億円の1%となると100万円になります。
1億円の人にとっての100万円リスクは、まぁ取れるとは思います。ものすごく極端に言って、100万円で宝くじを買って無くなってしまっても、全体のポートフォリオからしたら大きな痛手ではないと考えることと同じですから。100億円の人が1億無くなってしまってもまだ99億ありますので、日々の生活に困ることはないわけですね。逆に1億円が10億円になるようなリターンを生む、そういったリスクがあるような未公開株、ベンチャーキャピタルみたいなプライベートエクイティの場合を考えると、少し話が違ってきます。
例えば分かりやすく言いますと、こんな例を考えましょう。100億円の財産を持っている超お金持ちに、トルコのディベロッパー、不動産開発会社から、「今後トルコに大きなマンション・商業施設の開発をします。将来的には上場を考えているプロジェクトですが、プライベートエクイティとして1億円投資しませんか?」という案件が持ち込まれてこれに投資する。同じ話を聞きつけた総財産1億円のポートフォリオ運用している人が、仮に全体の1%にあたる100万円を投資しようとしても、投資額が100万円に小口化されていなければ投資ができないことになります。超富裕層はこういった投資対象に目を付けます。
そして当初の予定通り、経済成長、不動産ブームに乗って成功し、そのディベロッパー会社あるいはファンドが上場したとします。そして投資したものが10倍になったとすると、1億円が10億円になるわけですよね。仮に100万円で小口化されていれば、10倍の1000万円になっていて、比率でみると同じなのですが、やはり金額の規模、インパクトは違いますよね。投資規模の観点から考えますと、「ウルトラ・ハイ・ネット・ワース」が考えるポートフォリオは、金融機関が考えるポートフォリオと近いものがあるのではないかと思うので、そこは性格が違います。
逆の場合を考えますと、最小ロットが1000万と言われて、1億持っている方が10%の1000万をつぎ込んでしまって、例えばそのプライベートエクイティが上場するのが分からず20年停滞していた場合、その期間全く現金化されない、配当もない、何も生まなかったことになるわけですよね。これは相当マイナス・インパクトが大きいものです。
欧米各国にみる投資の実態
欧米における投資の中心は「株式運用」
欧米では株式中心に運用されています。株はこの10何年間素晴らしいパフォーマンスだったこともあって、株に投資するということの投資行動が正当化されています。株はキャピタルゲインだけではなく、配当利回りの高い銘柄も結構あります。少なくとも日本のように平均的に1%台半ばというようなものだけではなく、銘柄格差が大きく5%をかなり上回るものも中にはあります。もちろんキャピタルゲインももらえますが、まずは株式投資を重視しています。そして次に債券投資です。日本のように国債だけではなく、いわゆる「クレジット債」と言われる、企業が発行する債券などにも投資する傾向にあり、また海外債券にも投資をしていますが選択肢の幅が広いのが特徴です。
各国の統計を見てもアメリカや欧州では株や投資信託の比率が非常に高くなっています。特に米国ではこれらの資産に対する運用比率が、おおよそで見ると、個人金融資産全体の30%~40%であるのに対し、日本は10%というのが現状です。これがイギリス場合、年金の比率が非常に高いのですが、これも日本のように固定利回りの年金に一括で預けているということではなくて、日本でいう401kのような変動性のあるものも含まれており、長期運用の、どちらかというと株や投資信託に似ているものも含まれているわけです。その比率が50%近くありますから、株・投信と合わせると7割くらいをこういった資産で運用しているという点が特徴的です。
特にアメリカの場合、圧倒的に株式の比率が高いわけですが、株式が何かというと、その国の経済成長に投資をしていることになります。企業が経済成長によって生み出す利益を配当で回す。配当、そしてキャピタルゲインをもらう。キャピタルゲインは成長率に投資しているということですが、重要なことは、配当がある程度されて、かつ成長しているところにしっかり投資をしているということだと思いますね。
日本投資ブームの到来
この10年、15年のデータを見てみますと、海外というのは日本から見れば、基本的に通貨安の国でした。中国や途上国もその中に入っています。日本がほぼ唯一通貨の高い国であったのです。日本が実際にどうだったかというと、固定相場制で戦後360円だったものが1985年プラザ合意時に200円くらいまでいき、その後いろんな変遷を取りながら、1995年に80円を割るところまでいくわけです。価値とすると4倍くらいになっているということですね。360円出さなければ1ドルをもらえなかったのが、80円出すと1ドルもらえるようになり、ドルに対して4倍になっているわけです。4倍まで日本の通貨というのは買われたということになります。
こういった変遷はほとんどの通貨にとっても言えることで、ポンドの歴史はもっと恐ろしい数字になっています。逆に言うとアメリカからすると日本に対してはどんどん安くなっていったわけです。自国通貨がどんどん安くなっていく過程で、アメリカにとっては何をすることが一番重要だったかといいますと、どこまでいったら海外投資が安くなるかを見定める必要があったわけですね。それはすなわち、どこかのタイミングで自国通貨が強くならなければいけないということなのです。こういった背景があって、その後逆に日本にとってドルはどんどん強くなっていったわけです。
ちょっと強くなっていたところで弱くなってしまうと、海外投資は難しいのですが、実際はすごく利益が出ました。例えば1ドル360円で買っていたとします。それが100円になって260円入ってこないとしたらほとんど損をするわけですね。逆に100円で投資したものが仮に200円になってくれれば100円の利益が出ます。円高でドルが安く買える、割安感が出てくるわけですよね。
このことが今、海外でまさに起こっていることなのです。それは何かといいますと、これまでは日本に投資するとき、そして日本に旅行に来た時に円高で非常に高かったわけですね。しかし1年前に比べて3割円安になっているということは、海外の人から見たら日本でホテルに泊まって旅行をすると、3割安く感じるわけですね。3割安いもの。例えば1億円の不動産、1年前と比較すると今は30%割引で買えると思えるわけですね。こんなに安いと。ここが非常に重要な視点です。海外の人から見ると、円安になれば、どんどん投資をしようと思えるわけです。円安になるとどんどん日本に来ようと。そう思う人の数は過去に比べて圧倒的に増えている、つまりその投資金額が増えているというわけです。
この10年、20年で全く違う点がこういった点です。ですから今日本で円安になっていると輸出メーカーは良かったり海外投資は良かったりするけど、それ以外はメリットがないのではないかとふと思ってしまいがちですが、そんなことは全くないわけです。今、海外の投資家による日本投資ブームというのがものすごく起こっているわけですね。なぜなら1年前に比べて今は3割引なわけですよ。同じものが。ですから東京都内の様々な場所でマンションの値段が1億円をかなり超えるような所謂、億ションで「えー、こんな高いマンションを誰が買うのだろう」と思っても、かなり多くの外国人が実際そのマンションを買っているというデータが出てきているのには納得が出来ます。同じことを何度も言うようですが、1年前に1億だったものが今も1億で売っているとしても、外国人の方から見ると3割引で買えるわけですね。彼らからするとそんなに安くなったの?という感じで、しかも自分の資産が彼らの持っている海外のポートフォリオによってどんどん膨らんでいて2重3重のお買い得という状況です。
まず自分の懐が豊かになっている。しかも買おうと思っていた商品の値段が3割下がっていると。ですから日本への観光客もこの2013年に初めて1000万人を超えたと言われています。今外国人は日本に来るとすごく安いですし、外国人の投資がどんどん出てくると。今回日本株買いの中心が外国人投資家だったということも大きなファクター、かつ非常に大きなポイントです。
■このコラムの続きはこちら: https://asset.ohmae.ac.jp/news/column/05
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