グローバル・マネー・ジャーナル

2018.7.11(水)

米国が仕掛ける貿易戦争と今後の主要国経済(西岡純子)

2018.07.11(水)
米国が仕掛ける貿易戦争と今後の主要国経済(西岡純子)
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米国が仕掛ける貿易戦争と今後の主要国経済(西岡純子)

【米中貿易摩擦】関税引き上げの応酬は米国に分あり

今年に入ってから、米国と中国の間での貿易戦争は、それまで堅調であった主要国の株価や新興国市場の安定性にいよいよ影を落とし始めました。
7月6日には、米国のトランプ政権は中国からの輸入品目のうち、340億ドル相当分に対して関税を課すことを発表し、間髪入れず中国も、米国からの輸入品のうち、同じく340億ドル相当に関税をかけることを発表しました。
こうした関税の掛け合いで、実際に米国の貿易赤字や中国の貿易黒字が縮小するかといえば、そんなに単純なものではありません。例えば、中国からの輸入関税が上昇することで、そのコストを米国の輸入業者なり、価格転嫁された消費者なりが負担するとなれば、経済にとって良いものではありません。結果、米国内で生産するものの価格競争力が下がり、米国の貿易赤字は解消する目処が立たなくなるでしょう。
貿易赤字をいつまでにいくら削減する、という目標よりも、米国にとっての最大の関心は中国に市場、とくに次世代通信事業の覇権を握らせるのは避けたい、という思いであり、それが共有されていることで、共和党議員の間でのトランプ大統領への支持率もじわりと上昇しています。今年11月の中間選挙を前に、米国の政治家にとって共通の敵となる中国を叩く姿勢は、断続的に続くと考えられます。
関税引き上げの応酬は、持久戦に持ち込まれると米国に分があります。米国の輸入金額の方が、中国の輸入金額よりも多いためです。トランプ政権はこれからも中国に対して関税引き上げの対象品目・金額を増やすと公言しており、事態の収拾はつきにくいです。ただ、関税引き上げのコストが米国経済に及ぼす負の影響は明らかです。例えば、今年に想定される関税コストは、昨年末に議会で成立した大型減税策の効果をおおかた帳消しにする規模です。減税政策の適用は来年以降も続くため、経済の浮揚効果が期待されるわけですが、結局、減税政策の効果が関税引き上げによって幾らか消されてしまうのだとすると、経済の浮揚効果を期待して上昇してきた株価も、もう一段高は難しくなると言えるでしょう。
ここ数年、景気が相対的に良いとされてきたユーロ圏でも、足元で鈍い動きが目立つようになってきました。欧州と米国は近年の外交関係はよくありません。イラン核合意離脱を一方的に決めた米国に対する欧州諸国の反発は強く、とどのつまりの鉄鋼・アルミなど主要品目の関税引き上げがトランプ大統領から提示されたことで、一層、米国との関係悪化が市場でも取りざたされるようになりました。
左上のチャートでは企業景況感を表すPMI指数を示しており今年に入ってからの下方屈折が目立ちます。堅調だったGDP成長率も、今年1-3月には伸びが大きく鈍化しました。これらは貿易戦争への懸念を強く反映したものと言えますが、実はユーロ圏は供給制約が次の成長加速を阻害している、という事実も重要です。需要は好調で、企業の生産稼働率は確かに上昇しているのですが、人手不足と生産・営業用設備の不足が、ユーロ圏企業の生産活動を阻害している、とのサーベイ結果もあります(右下の図)。
2012年以降、ギリシャ債務危機を発端に欧州では市場の混乱と金融システム不安が取りざたされました。4、5年の期間をかけて、そうしたクレジット危機の波及は後退したと言えるのですが、その間、企業が新規の設備投資を控えたことが、今になって生産制約として景気拡大を阻害する要因となっているのです。
ECBはフォワードガイダンスで、年内に資産の新規購入を終了し、来年夏ごろから利上げに移るスタンスを既に明らかにしています。先月はイタリアの政治不安が市場の混乱を呼びました。イタリア国債金利の対独スプレッドは大幅に拡大し、イタリア国債の規模の大きさと、それがまた第二と欧州債務危機につながるとの、リスクシナリオすら台頭した今年の年末にかけては、主要格付け会社によるイタリア国債のレビューが連なっているため、その都度市場のセンチメントを冷やす材料として浮上することはあるでしょう。ただ、欧州債務危機以降、当局によるリスクの伝播を封じ込める危機対応は万全となっており、少々のリスクイベントで市場が長く、混乱することはないと思われます。それよりは、欧州にとっても米国がしかける貿易戦争の方が、市場、経済、双方にとって大きな問題になると考えられます。
中国は、これまでの米国からの圧力に対して巧にかわしつつ、対抗する分野では徹底して対抗する姿勢です。習近平主席の下での政策は、2050年代まで見据えた長期的な「計画」が明示されており、特に「中国製造2025」で詳細に示されたように、中国が付加価値の高い製造業種を作り上げ、それを世界レベルへ押し上げる方針ははっきりとしています。2015年前後に、中国の先行き不安から大きく市場を混乱させた中国は、懸念された過剰在庫問題も十分に解消しており、米国と徹底して対抗する姿勢です。特に重視している産業は次世代通信事業であり、その覇権獲得のためには、北朝鮮外交を含めた数々の戦略的外交を駆使しながら、国力増強のため成長底上げへの資本も政府は講じる構えです。
仔細には、中国企業が発行した社債でデフォルトが発生するなど、企業の資金繰りがやや逼迫し始めている事実はあるものの、中国当局による通貨・資本政策(規制)、金融・財政政策を総動員する形で、中国は経済の下ぶれと市場の混乱を人為的に抑制すると考えられます。
目先の関心は、米国のFRBが年内に2回の利上げ、そして来年も2回ほど利上げができるかどうかです。足元で、新興国通貨が売りに押され始めているのはやや気になる動きではありますが、そうした動きを確認しつつ、FRBは淡々と利上げをしていくと思います。利上げを続けることで、米国内や国外に金利コストが急増するようなリスクもさほど大きくは蓄積していないと窺えます。
リーマンショックから約10年、そろそろ景気は失速すると言われ続けていながら、多少の波はあっても景気は成長し続けています。金融機関が規制でリスクテイクを抑制している結果、景気の拡大はより一段と伸びる可能性すら高くなってきました。過去ほど、ドル金利が大幅に上がるとは考えにくいのですが、ゆるやかにドル金利が上昇することで、為替ドル円もゆるやかに上昇トレンドが維持されやすい期間が続くと考えられます。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座/「金融リアルタイムライブ」講師
三井住友銀行 市場営業統括部
チーフ・エコノミスト(日本)
西岡 純子
講師より寄稿いただいた内容をご紹介しております。
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【次回の記事】日本の財政健全化は本当に実現するのか?(大前研一)
【前回の記事】
日本の個人金融資産とトルコ大統領選(大前研一)

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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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