グローバル・マネー・ジャーナル

2018.5.30(水)

日本円が最も割安と言われる根拠(唐鎌大輔)

2018.05.30(水)
日本円が最も割安と言われる根拠(唐鎌大輔)
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日本円が最も割安と言われる根拠(唐鎌大輔)

【実質実効為替相場の推移】

 為替というと、ドル円というバイラテラルの関係に注目する人が多いと思いますが、やはり為替にはドル円もあればユーロ円もあり、ポンド円も、さらにはインドネシアルピア円などまであるのです。そうした全体的なその通貨の総合力を図る指数が、よく国際経済や外交の舞台で使われることがあり、それが「実質実効為替相場」です。この実質実効為替相場(Real Effective Exchange Rate)は国際決済銀行が出している数字で、その通貨の総合力、実力と言われ、グラフ上では上に行くと実力が高く、下に行くと低いということになります。日経新聞等では日経通貨インデックスという独自のものが使われていることもありますが、それと同じようなものだと考えて構いません。
 この実質実効為替相場は、基本的にはドルが上がればそれ以外の通貨が安くなると考えられるものですが、これが2014年の半ば以降、ドル全面高がずっと進んできました。14年半ばから15年にかけては相当な上昇が続き、16年もややドル高になり、17年に入るとドル全面安に転じたのがわかると思います。私の予想としては、15年の半ばあたりからドルが高すぎると思っていました。高すぎるドルの裏側で、これからドル全面安に調整していくと思われ、その中で円高が進むだろうと考えていました。実際に2017年にはドル全面安になったわけですが、しかしその裏側でいまひとつ円高が進まなかったという状況がありました。
 その原因は結局変動為替相場なので、何かが売られれば何かが買われるというところにあります。去年ドル全面安が進んだわけですが、グラフでは実質の円は大して高くなっていません。円はドルと一緒に下がってしまっているのです。ではドルが安くなった裏側で一番買われていたのは誰なのかと言うと、結局それはユーロだったのです。
 実際ドル円相場という2通貨だけを見れば、117円で始まって112円で終わり、円高だったのですが、為替相場全体で見たときには、ドル全面安の裏側で一番買われたのはユーロだったというわけなのです。このようにドル売りの受け皿がユーロだったが故に、大して円高にならなかったというのが、この一年の整理として指摘できるのです。日本にいると、あまりユーロの解説を聞かないかもしれませんが、この一年の主役は間違いなくユーロだったということは、このグラフから理解しておくべきでしょう。

【実質実効為替相場の近況】

 こうした大きな流れを踏まえた上で、今、円はどういう立ち位置にあるのでしょうか。実質実効為替相場というのは、理論的には教科書を開くと、「長期平均に回帰する傾向がある」とされています。過去20年、30年の平均を取った場合、そこから離れていけば、その平均値に戻っていく習性があると言われているのです。これは理論的に数式を使ってきちんと説明ができるものです。
 長期平均として20年平均が使われることが多いのですが、20年平均と今年4月時点の水準がどれぐらい離れているのかを計算してみると、一番割安だと判定されるのが日本円なのです。
 今年の4月時点で、円の平均値との乖離率は-22%から-23%程度で、2割以上安すぎるという状況です。また、去年の4月時点を見ても乖離率は約-18%であり、この1年間でより安くなっているのです。このグラフの見方は、例えばメキシコペソであれば去年の4月は約-22%、今年は約-17%と、割安には違いありませんが、この1年間でしかるべき方向に動いたという点では合格ということがわかります。その一年間の差を示したのが灰色のボールで、棒グラフとは逆の方向に飛び出していれば、乖離率が修正するように動いたと判定されるわけです。
 ユーロを見るとよくわかりますが、この1年間でユーロは大きく上昇し、去年約8%割安だったものが、今はほとんどニュートラルに修正され、差分を示すボールがその分上に跳ねているということが示されています。棒グラフとは逆の方向にボールが飛んでいる通貨は、この1年間できちんと調整をした通貨だと言えるわけです。
 こうしてみると日本円は全く修正ができていないのです。割安なものがさらに割安になっています。そうした意味で「狙われる筋合いがある」と言えるのです。アメリカの財務省が半期に一度、4月と10月に、為替政策報告書というものを出しています。4月に出たその報告書で、日本円は長期平均対比で25%安いと書かれてしまっているのです。報告書の作成には1月から2月の水準が用いられるので、今よりもっと割安な25%との指摘だったわけです。主要通貨の中で最も割安なのに、最も調整をしていない通貨、それが円なのです。
 アメリカは、為替政策報告書の中で、監視リストというものを必ず公表しています。アメリカに対して貿易黒字が大きい、経常収支の黒字額が大きい、為替介入をたくさんしている、という3つの基準があり、そのうち2つを満たすと監視リストに入るのです。リストに掲載されている通貨の中で、一番割安なのが日本円であり、さらに一番調整していないということなのです。これはなんとなれば、アメリカ財務省が文句をつけようと思えばいくらでもつけられる場所にいるのが日本円の今の状況であるということなのです。
 このタイミングでこの話が重要なのは、先般安倍首相がトランプ大統領とアメリカで首脳会談し、その時にアメリカと日本の間で新しい二国間の貿易交渉のプラットフォームを作るということ打ち出したからです。今後の交渉は茂木経産相とライトハイザー通商代表との間で行っていくとされましたが、要するに、日米FTA交渉の舞台をこれから作っていくという話だったわけです。仮に二国間でFTA交渉をするとなれば、やはり為替の話になりやすいのです。
 3月から4月にかけて、韓国がアメリカとFTAの見直し交渉をやり、為替に関する条項を入れるかどうかでかなり揉めました。その韓国の通貨ウォンも、監視リストには入っていますが、円とは異なり割高判定の通貨なのです。それでも通貨について指摘されるわけです。ただ韓国の場合は為替介入をしているので、そこが責められると言えるでしょうが、同じような文脈で交渉に向かわれると、日本円はかなり分が悪いと思われます。
 FTA交渉がいつ、どのタイミングでされるかはまだ決まっていませんが、仮に今後そういう話になると、日本円はかなり気まずい立ち位置にあるということを認識しておく必要があります。結局、円の割安にフォーカスするかしないかはトランプ大統領次第なので、今後秋口に中間選挙があり、2020年には自身の再選がかかっているわけですから、やはり通貨は高いよりも安い方が良い、相手の貿易黒字は小さい方が良いということを打ち出してくる可能性は低くないだろうと思います。
【講師紹介】
ビジネス・ブレークスルー大学
株式・資産形成実践講座/「金融リアルタイムライブ」講師
みずほ銀行 国際為替部 為替営業第一チーム
チーフマーケット・エコノミスト
唐鎌 大輔
5月23日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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▼その他の記事を読む:
【次回の記事】イタリア情勢/日本の生産性(大前研一)
【前回の記事】米株価暴落の前兆とは何か?(田口美一)

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それでは、次回のグローバル・マネー・ジャーナルもどうぞお楽しみに!
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